聴くチカラ研究所|4DL Technologies株式会社

スタートレック「コバヤシ・マル」から考えるLLM駆動論 ――なぜCopilotは定着せず、AI活用は“加速しない”のか?

作成者: 荒巻順|2025/10/05 2:47:23

DX推進部門のみなさんは「スタートレック」という、1966年から続くSFドラマはご存じでしょうか?

4DL Technologies株式会社は、AIを単純作業ではなく思考支援を通じた付加価値創造ツールとして活用を定着させるために、システムプロンプトへ独自アーキテクチャでアプローチをしています。

その一端をスタートレックをモチーフに今日はお届けします。

みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。

「鳴り物入りでCopilotを全社導入したものの、数ヶ月後には一部の社員しか使っていない」

「ChatGPTの活用研修を行ったが、日々の業務にどう活かせばいいのか、現場は戸惑ったままだ」

DX推進部門の皆様にとって、これは喉の奥に刺さった魚の骨のように、気になってはいるものの、簡単には取り除けない現実ではないでしょうか。あなたの現場でも、何かがおかしい、何かが噛合っていないと感じていませんか?

なぜ、あれほど大きな可能性を秘めたはずの生成AIは、多くの企業で期待されたほど定着せずに、“なにか停滞感”でてしまうのか。

それは、現場のリテラシーやマインドだけの問題ではありません。もっと根深い場所に、構造的な原因が潜んでいます。

本質的な原因は、「“勝ち方”が定義されないまま現場に委ねられた」状況で、AIという強力なツールだけが与えられていることにあります。

“前提を書き換えた”カーク船長の発想は、AIを活かす思考設計に通じる。

本記事では、この課題をSF作品『スタートレック』に登場する有名なエピソード“コバヤシ・マル”を題材に解き明かし、AI活用を成功に導くための新たな視点を提示します。

 

目次


1. 勝ち筋が存在しない状況に、どう挑むか

 

スタートレックシリーズをご存知ない方のために、まず“コバヤシ・マル試験”について簡単に説明します。これは、宇宙艦隊アカデミーの士官候補生が受ける、極めて難易度の高いシミュレーション訓練です。

訓練の状況はこうです。中立地帯の向こう側で、味方の輸送船「コバヤシ・マル」が救難信号を発信。しかし、救助に向かうと敵艦隊との戦闘は避けられず、戦力差は絶望的。

かといって見捨てれば、乗員は見殺しになってしまう。この試験は、意図的に「どうやっても勝てない」ように設計されており、候補生が絶望的な状況下でいかに指揮能力を維持できるかを試す、いわば“負け戦”の訓練なのです。

歴代の候補生がことごとく失敗する中、後の伝説的な船長ジェームズ・T・カークだけが、この試験を突破しました。

彼はどうしたのか。シミュレーションのプログラム自体を事前に書き換え、「敵の防御シールドを無効化する」という、本来のルールには存在しない“勝ち筋”を自ら創造したのです。

彼の行動は、定められた枠の中での最適化ではなく、“枠そのものを再構築する力”でした。

それは失敗を前提とせず、勝利条件から逆算して「前提を再設計する」という、創造的な問題解決能力の象徴なのです。

彼は、負けるように作られたゲームの盤上で最善手を打つのではなく、ゲームのルールそのものを変えたのです。

 

2. LLMは“前提”を疑えない──AI活用の限界とは

 

この“コバヤシ・マル”のエピソードは、現代の私たちが直面するAI活用の課題に対して、極めて重要な示唆を与えてくれます。

CopilotやChatGPT・Geminiをはじめとする大規模言語モデル(LLM)は、与えられた情報や指示(プロンプト)に基づいて、最適な答えを驚異的なスピードと精度で生成します。

しかし、LLMには決定的な限界があります。それは、与えられた“前提”そのものを疑うことができないという点です。

  • PoC(概念実証)止まりのプロジェクト: 「この技術で実現可能なPoCのアイデアを出して」と指示すれば、AIは無数のアイデアを出します。しかし、PoCを繰り返すばかりで事業化に至らない根本原因、すなわち「事業化の判断基準や撤退ルールがそもそも組織に存在しない」という前提そのものを問い直すことはありません。

  • 形骸化した業務プロセス: 「この報告書作成プロセスを最も効率化する手順を教えて」と頼めば、完璧な手順書を作成します。しかし、「そもそも、誰も本質的に読んでいないその報告書自体が不要なのではないか?」という根本的な問いは立てられないのです。

LLMは、“コバヤシ・マル試験”のシミュレーションそのものです。

プログラムされたルールの範囲内で最善のパフォーマンスを発揮しますが、ルール自体が「勝ち筋のない」ものであれば、AIは私たちを敗北へと導く最も優秀なナビゲーターにしかなり得ません。

AIを真に活用するために必要なのは、AIに指示を出す人間側が、カーク船長のように「どこに勝利条件を置くか」「どのような前提の上で思考させるか」という、導く方向を指し示す設計力なのです。

 

3. プロンプト設計だけではAIは定着しない──求められる“思考OS”とは

 

多くの企業で実施されているAI活用研修は、「プロンプトエンジニアリング」、つまり「いかにしてAIに的確な指示を出すか」というテクニックの習得に終始しています。

しかし、これは言わば、“コバヤシ・マル試験”でいかに上手に負けるかを学ぶようなものです。前提が絶望的なままでは、どんなに巧みなプロンプトも状況を覆すことはできません。

AIが組織で根づかない本当の理由は、この「思考の前提を設計する」という最も重要なレイヤーが、誰にも担われていないからです。

私たち4DL Technologiesは、このAIとの協働における最上位の設計思想を「思考OS」と呼び、いわばAIに思考させるための「地図」や「設計図」だと考えています。

その中核に“Protocol層”という概念を置いており、これはAIに具体的な指示(Prompt)を出す前に、まず人間が定義すべき思考の土台です。

 

  • 前提(Premise): 我々は何を疑わず、何を信じてこの問いに挑むのか?
  • 勝利条件(Victory Condition): この対話における「成功」とは、具体的にどのような状態か?
  • 価値観(Values): どのような倫理観や判断基準を優先するのか?
  • 制約(Constraints): 考慮すべきリソースや時間、ルールの限界はどこにあるか?
  • 書き換え可能性(Mutability): これらの前提のうち、どれが交渉・変更可能で、どれが絶対不変なのか?

 

これらの「思考OS」を設計し、組織で共有すること。

それがあって初めて、日々のプロンプトは意味を持ち、AIは組織を勝利に導く真のパートナーとなり得るのです。

ただプロンプトを教えるだけでは、組織は「上手に負ける研修」を繰り返すだけになってしまいます。

 

4. まとめ──あなたの“コバヤシ・マル”はどこにある?

 

あなたの組織で、DX推進が停滞している場面を思い浮かべてみてください。

その「もう打つ手がない」という感覚は、本当に限界なのでしょうか。それとも、誰もが“コバヤシ・マル試験”のルールの中で戦うことしか考えておらず、勝ち筋を誰も再設計していないだけなのではないでしょうか。

あなたの“コバヤシ・マル”は、どこに隠れているでしょう。 例えば、それはこんな場面かもしれません。

  • 予算会議: 「前例がない」という一言で、新しい事業のGoサインが決して出ない。
  • 業務改善: 「うちのやり方は特別だから」と、既存の研修プログラムや業務フローを変えることに強い抵抗がある。
  • 経営会議: 上司が「絶対に失敗したくない」と繰り返すことで、挑戦的な選択肢が最初から議論のテーブルに上がらない。

AIは、私たちに魔法の解決策を授けてはくれません。

しかし、私たちが「思考OS」を設計し、新たな前提を与えることで、これまで不可能だと思われていた“勝ち筋”を発見するための、最強のシミュレーターとなってくれます。

DX推進に今、本当に必要なのは、高度なプロンプトの技術ではありません。 それは、自らが置かれた状況の“前提にアクセスする勇気”です。それこそが、AI時代における創造性の、本当の始まりなのです。

 

「前提を疑う」ための、次の一歩

 

この記事を読んで、「自社の“コバヤシ・マル”はこれかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。

その感覚こそが、変革の第一歩です。

しかし、一人で前提を書き換えるのは困難です。4DL Technologiesでは、この「勝ち筋を言語化する」ための思考OS(4DL-AAS)設計トレーニング(ANTシリーズ)を提供しています。

まずは、この記事で得た視点を、あなたのチームや同僚と話し合ってみてください。「私たちの“コバヤシ・マル”って、なんだろう?」と。

その小さな問いかけが、組織の前提を書き換える、大きな力になるはずです。

4DL Technologies株式会社のLLM駆動アーキテクチャ(4DL-AAS)がアップデートし、エンタープライズ企業のDX推進部門を通じて非エンジニアの付加価値創造を生成AI時代のリスキリングプログラムがアップーデートします。

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