最近、ChatGPT、Gemini、ClaudeそしてMS365 Copilotといった生成AI(大規模言語モデル、LLM)が急速に普及し、「とりあえずAIを使ってみる」ことは、もはや誰でもできる時代になりました。
みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。
特に、DX推進部門やデジタル経営推進部門で「Microsoft 365 Copilotの社内展開」を任されている方ほど、AIの“賢さ”そのものではなく、「どこまでAIに任せて、どこを人間が握り続けるのか」という設計に頭を悩ませているのではないでしょうか。
AIがどれだけ賢くなっても、ただ「いい答え」を待っているだけでは、私たちはAIに依存するだけになってしまいます。
そこで今回は、《聴くチカラ研究所》の思想論として、「AIに“いい問い”を丸投げしてしまう前に、人間の側で決めておくべきことは何か?」というテーマを掘り下げてみたいと思います。
Transfer Modelの限界を前提に「問い」を設計する、非エンジニアの実務者視点の生成AI論です。
この記事は、こんな方に読んでほしい記事です
まず大前提として確認したいのは、現在の主流な生成AIは、その構造上、本質的に「受け身(Passive)」であるという事実です。
Transformerは「大規模に覚えさせて、確率的に返す」仕組み
私たちが今使っているLLMの多くは、「Transformer(トランスフォーマー)」という技術をベースにしています。
聴くチカラ研究所は、詳細に深入りする場ではありませんので、ごく簡単に説明すると「膨大なテキストデータを学習し、ある単語の次に“最も確率が高い単語”を予測して並べていく」仕組みとなります。
彼ら(AI)は、膨大な知識を「記憶」していますが、その出力はあくまで統計的・確率的なものです。そこに「自分から何かを問いたい」という“意志”や“意図”は、基本的には存在しません。
つまり、現在のLLMは「起動して待っている」存在です。
私たちが「Copilot、要約して」「ChatGPT、アイデア出して」と呼びかける(プロンプトを入力する)ことで、初めて彼らの確率的計算がスタートします。AIのActive(能動的)さは、完全に人間の側の“問い”に依存しているのです。
この「人間がActive、AIはPassive」という関係性が、今のAI活用における非常に重要なポイントだと私は考えています。
この「人間がActive、AIはPassive」という関係性は、永遠に続くのでしょうか? 私はそうは思いません。ここに、一つに仮説(あるいは感覚値)を持っています。
私の仮説は、「人間が“問いの優位性”を明確に持てる期間は、あと3年程度かもしれない」というものです。
もちろん、これは技術的なロードマップに基づく断言ではありません。あくまで、技術の進化スピードとビジネス現場の変化を見てきた実務者としての“感覚値”です。
いずれAIは、技術がさらに進歩すれば、私たちが何も言わなくても「社長、先週の営業会議の議事録と今期の目標数値にギャップがありますが、ここの戦略を見直しませんか?」といった、“それなりの問い”を自動で、能動的に投げてくるようになる可能性は高いでしょう。
とはいえ、先ほど述べたTransformerモデルをベースにしている限り、その進化には構造的な限界があるはずです。
この「AIがまだPassiveでいてくれる」期間が、私たちにとってのラストチャンスになるのではないかと考えています。
なぜ今がチャンスなのか。
5年後、10年後にAIが本当にActiveになった(能動的に問いを立てるようになった)世界を想像してみてください。
その時、組織は二極化するはずです。
この差は、いつ作られるのか? 私は、AIがまだPassiveである「今この3年」で作られると確信しています。
AIが受け身であるうちに、人間側が「問いの立て方」「問いの深め方」を組織のOS(基本動作)としてインストールできた組織だけが、将来ActiveになったAIを「使いこなし」、後者の組織になれるのです。
では、なぜ現在のLLM(Transformerモデル)には「限界」があり、人間に優位性があるのでしょうか。それは、AIの記憶の仕組みと、人間の記憶の仕組みの違いにあると私は見ています。
LLMは「巨大な長期記憶」+「確率的検索」に偏っている
いまのLLMは、インターネット上の膨大なテキストデータを学習しています。これは、ある意味で「完璧すぎるほど巨大な長期記憶」を持っているようなものです。
しかし、彼らのアウトプットは、その巨大な長期記憶から「確率的にもっともらしい答え」を検索してきているに過ぎません。
そこには、人間が持つ「あれ、なんか変だな?」という“違和感”や、「そういえば、あの時のあれと似ているかも」という“ひらめき”を生み出す機能が、まだ決定的に弱いのです。
一方、私たち人間はどうでしょうか。
人間の創造性や「問い」は、多くの場合、「目の前で起きていること(短期記憶)」と「過去の経験や知識(長期記憶)」との“ズレ”や“ギャップ”から生まれます。
この“差分”に気づき、それを言語化する能力こそが、人間の知性であり、創造性の源泉になっていると私は考えています。
現在のLLMには、この「短期記憶と長期記憶の意図的な衝突」を起こすメカニズムが欠けています。
この違いを認識すると、AIの使い方が変わってきます。
AIには「巨大な長期記憶」の代弁者として、客観的な事実や膨大なパターンを語ってもらう。 それに対し、人間は「今、ここ」の現場感や短期記憶、あるいは自身の経験(長期記憶)から「違和感」を感じ取り、問いを立て直す。
AIに答えを求めるのではなく、AIとの対話によって「差分」を浮き彫りにする。
これこそが、AIを「思考の相棒」にするということであり、この対話プロセスを支えるものこそが4DLが問いかける「問いのOS」なのです。
生成AIがPassiveである今、AIのアウトプットの質は、100%人間の「問い」に依存します。だからこそ、「問いの立て方」そのものが、これからの時代における人間の賢さの象徴となります。
ここで言う「問いの立て方」とは、「あなたは優秀なマーケターです」といった単純なプロンプトテクニックの話ではありません。
私たちが問うべきは、もっと上流の「設計」です。
この「前提をどう置くか(デザインするか)」こそが、AI活用の本質です。
PassiveなAIに対して、人間の「問い」がOSの役割を果たしている。 であればこそ、私たちは「OSを設計できる人材」を、今こそ意図的に増やさなければなりません。
AIが答えを出すプロセス(計算)で勝負しても、人間に勝ち目はありません。
私たちが勝負すべき場所は、AIが計算を始める前の「問い(前提)」を設計する領域です。
この3年間は、その「問いのOS」を設計・運用できる人材を組織内に育成するための、最後の(あるいは最初の)重要なチャンス期間だと私は捉えています。
ここまでお話ししてきた「人間がActive、AIはPassiveでいられる数年」という前提は、 DX推進部門がMicrosoft 365 Copilotの定着を設計するうえで、極めて現実的なテーマではないかと私は考えています。
多くの企業では、すでにCopilotのライセンスを配布し、操作研修も終えています。しかし、
といった声が、DX推進部門から頻繁に聞こえてきます。 これは単なる“使い方の問題”ではなく、組織として「問いのOS」を持っているかどうかの問題です。
こうした「問いの設計」が曖昧なまま、Copilotだけを配っても、その数年は“できる人だけが先に行き、他の人は黙る”という構図を固定化してしまいかねません。
逆に言えば、いまの3年は、DX推進部門が「Copilotを前提にした問いのOS」を組織にインストールできるかどうかを決める期間です。
この視点からCopilot定着を見直した内容が、別記事
などのシリーズで、具体的に展開している内容です。
私たちは、《AIを”使う”から”使いこなす”へ》というテーマ推進する一方で、「AIに依存しない人を増やす」という裏ミッションも持っています。これは一見、逆説的に聞こえるかもしれません。
もし、AIを単なる「答え製造機」として扱い、思考を丸投げしてしまえば、どうなるでしょうか。 一時的に効率は上がるかもしれませんが、人間が本来持つべき「なぜ?」「本当か?」と疑う力、すなわち「問いの筋力」は確実に衰えていきます。
だからこそ、私たちは「AIに依存しないために、あえてAIを思考プロセスに組み込む」という姿勢が必要だと考えています。
AIは、答えをくれる便利な機械ではありません。 こちらの思考を刺激し、前提を揺りぶり、新たな「問い」を生み出してくれる「思考の壁打ち相手」です。
人間が持つべきは、「問いのOS」という羅針盤と、「AIの限界(Passiveさ)への感度」です。それさえあれば、AIがどれだけ進化しても、私たちはAIに依存するのではなく、AIを「相棒」として使いこなし続けることができるはずです。
今回の番外編・思想記事のポイントを整理します。
私たちは、AIがまだ「受け身」でいてくれるこの“数年”を、どう使うべきでしょうか。
「答え」をAIに求めることに終始するのか、それとも「問い」を設計する能力を磨き込むのか。4DLは、後者の道を歩む企業を支援していきたいと考えています。