「Copilotのライセンスは配った。操作研修もやった。次はPoC(概念実証)やハッカソンで成功事例を作るぞ」
そう意気込んで企画を走らせたものの、蓋を開けてみれば応募してくるのはいつもの「デジタル感度の高い若手」ばかり。
イベント当日は盛り上がったけれど、数ヶ月経っても現場の業務プロセスは何も変わっていない──。
正直なところ、CopilotまわりのPoCやハッカソンは、「どこの会社もやっているから、とりあえずウチも」という空気だけで走り出しているケースも少なくありません。
みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。
その結果、報告書には「PoC実施数」や華やかなイベント名が並ぶものの、現場の会議の中身や仕事の進め方は1ミリも変わっていない。
そんな“PoCごっこ”のような状態に、事務局のあなた自身もうっすら気づいているのではないでしょうか。
今回は、多くのDX推進担当者が陥りがちな「AIハッカソンが組織の分断を生んでしまう構造」と、それを「組織の接着剤」に変えるための「前室(ANT-B0)」という処方箋について解説します。
目次
1. PoC/ハッカソンの現実:若手だけが光り、事務局だけが疲弊する
DX推進部門や事務局のみなさんが直面している「あるある」を少し整理してみましょう。
- 公募の偏り: アイデア募集をかけても、反応するのはITリテラシーの高い一部の若手層だけ。ベテランや現場のキーパーソンは「忙しいから」「AIはよく分からないから」と距離を置く。
- 実装の壁: ハッカソン当日は「すごい技術デモ」で盛り上がるが、いざ業務に組み込もうとすると「セキュリティが」「既存フローと合わない」と頓挫する。
- 事務局の疲弊: 企画、募集、審査、報告資料作成……膨大な工数をかけて「やった感」は出るものの、Copilotの利用ログ(Active User)は期待ほど伸びない。
結果として残るのは、「PoC実施数」という報告用の数字と、ごく少数の成功事例だけ。
「全社のAI定着」や「本質的な生産性向上」という本来のゴールは、蜃気楼のように遠のいていきます。なぜ、Copilot導入のための施策が、空回りを起こしてしまうのでしょうか。
2. なぜPoCが「分断装置」になってしまうのか──AIは接着材にも毒にもなる
AI、特にCopilotのような生成AIは、本来「非エンジニアを主役にできるテクノロジー」です。プログラミングができなくても、言葉(プロンプト)さえあれば業務を効率化できるからです。
しかし、導入の「順番」を間違えると、AIは組織の世代間・職種間の「分断装置」として機能してしまいます。
PoCやハッカソンというイベントは、参加者に一定のリテラシーと能動性を求めます。ここに、何の準備もなしにいきなり社員を放り込むとどうなるか。
- 若手デジタル勢: 最新技術を使って「華やかなアウトプット」を出し、称賛される(若者ショーケース化)。
- ベテラン・現場層: その様子を見て「自分たちの仕事とは別世界の話だ」「また若い子が遊んでいる」と、心理的な壁を作る。
本来、PoCの価値は「若手の感性でAI活用の“芽”を出し、そこにベテランの知恵・現場感を重ねて“実務に耐える案”に育てること」にあるはずです。
「テンプレPoC」が分断を加速させる
DX推進側の本音としては、「Copilot導入後も、ちゃんと手を打っています」「社内公募で現場の声も拾っています」と、活動の正当性を示したい気持ちもあるはずです。
だからこそ、他社事例やベンダーが提供する“PoCのテンプレート”は非常に便利です。
しかし、「自社の現場の癖」や「組織特有の温度差」を織り込まないまま、その便利なフォーマットに乗っかった瞬間、DX施策は単なる“イベント運営”へとすり替わってしまいます。
共通の土台がないまま「よそと同じやり方」で競争形式のイベントを行う。
これでは、両者の距離は縮まるどころか、むしろ「デジタルの格差」が可視化され、断絶が深まってしまうのも無理はありません。
3. PoCを「接着装置」に変える条件──共通体験と共通言語
PoCを「分断装置」ではなく、組織を繋ぐ「接着装置」にするためには、イベントの前に以下の2つの条件を揃えておく必要があります。
条件①:共通体験(Gen-taiken)
参加者全員が、「AIを自分の業務に使ったら、ちょっと楽になった/思考が深まった」という原体験を持っていること。
「すごい技術」ではなく「私の道具」という感覚がなければ、AIはいつまでたっても他人事です。
条件②:共通言語(Kyotsu-gengo)
AIへの指示出しやフィードバックを、組織内の会話に乗せるための言葉です。
「壁打ちしてみて」「要約させて」「視点を増やして」といった、非エンジニアでも使える動詞が共有されていなければ、若手とベテランの会話は噛み合いません。
この2つがない状態でハッカソンを開催するのは、ルールも用語も知らない人たちをいきなり試合会場に連れて行くようなもの。それでは、経験者(デジタル勢)しか楽しめないのは当然です。
4. PoCの前に「ANT-B0」を置くという発想
では、具体的にどうすればいいのか。私たちが提案しているのは、PoCやハッカソンの前に、4DL Technologies株式会社の開発した「ANT-B0」というAIの活用体験ワークショップ(前室)を設けることです。
ANT-B0とは、いわば「AI活用の共通エンジン起動セッション」です。
いきなり「アイデアを出せ」「開発しろ」とは言いません。若手、ベテラン、管理職をあえて混ぜたチームで、半日ほど以下のプロセスを共有します。
- 自分の業務を棚卸しする
- Copilotを使って、その業務の「壁打ち・要約・視点出し」を行う
- AIからのフィードバックを、チーム(若手×ベテラン)で眺める
ここで重要なのは、「同じ画面(AIとの対話ログ)を見ながら会話する」という体験です。
- 若手: AI操作のスピードでリードしつつ、ベテランから「その出力、現場のルールだとこう直さないと使えないよ」という“知恵”をもらう。
- ベテラン: 若手の操作を見て「なるほど、こう聞けばいいのか」と学びつつ、自分の長年の経験がAI修正に役立つという“効力感”を得る。
この「前室」を通ることで、AIは「若手のオモチャ」から「世代を超えた共通の道具」へと昇華されます。
5. ケースイメージ:ANT-B0を経てPoCへ進むと何が変わるか
《ANT-B0》というAI体験ワークショップを挟むことで、その後のPoCやハッカソンの質は劇的に変わります。
Before(いきなりPoC)
- 応募は若手エンジニアやデジタル推進室周辺のみ。
- テーマは「最新モデルのAPIを使ったチャットボット」など、技術ドリブンで現場実装のハードルが高いものが多い。
- 終了後、現場への展開が進まず、使われないPoC実績だけが積み上がる。
After(ANT-B0で土台を作ってからPoC)
- 「若手×ベテラン」のペア応募が生まれる。(ANT-B0で対話のきっかけができているため)
- テーマが「日報作成の半自動化」「ベテランのノウハウ検索補助」など、地味だが確実に現場の痛みを取り除くものになる。
- ベテランが最初から関与しているため、ハッカソン後の現場実装・定着がスムーズに進む。
事務局視点で見れば、「PoCのネタ出し」と「実装フェーズのフィジビリティ(実現可能性)確認」を、ANT-B0という前室で済ませてしまうイメージです。
これにより、PoC後の「放置案件」が減り、DX推進の実績としての「質」が向上します。
6. まとめ:PoCの数ではなく、“PoC前の半日“に投資しませんか?
DX推進 Copilotの成功は、「PoCを何回やったか」や「どれだけ高度なプロンプト集を配ったか」では決まりません。
CopilotまわりのPoCやハッカソンは、今や「DXやっています」という定番メニューになりつつあります。だからこそ危険なのは、「他社もやっているから」「ベンダーも勧めてくるから」という理由だけで同じレールに乗ってしまうことです。
PoCの件数は、経営会議のスライドをきれいに埋めてくれます。けれど、PoCの“前の半日”を設計しない限り、現場の空気は1ミリも変わりません。
DX推進が本当に投資すべきなのは、PoCの数ではなく、「PoCの前に、現場全員のエンジンを温める“前室”を挟むこと」です。
その分岐点は、本格的に走り出す前の「共通体験と共通言語」の設計にかかっています。
事務局のみなさん、次のPoCやハッカソンの公募をかける前に、一度立ち止まってみてください。対象となる部署やチームに対して、たった半日、「ANT-B0というワークショップ型の前室」を挟んでみる。
それだけで、その後の景色──集まるアイデアの質、ベテラン社員の目の色、そして何より「AIが組織に馴染んでいく感覚」──は、驚くほど変わるはずです。
4DL Technologies株式会社からのご提案
御社のDX推進施策において、PoCやハッカソンを「分断装置」にしないための「前室(ANT-B0)設計」について相談してみませんか?
- 現状のCopilot利用状況と課題のヒアリング
- 確実な定着をトレーニング設計コンサルティング(とくに社内AIリテラシーの調査分析)
- 御社の組織風土に合わせたANT-B0カリキュラムのカスタマイズ
記事執筆者
荒巻 順|4DL Technologies株式会社 CCO(AIソリューションデザイン統括)
AIを“効率化ツール”で終わらせず、組織の意思決定と行動を進化させる「思考支援の仕組み」として実装・定着させることを専門とする。
NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)にて25年以上、BtoBセールス部門の人材育成・資格制度・研修体系の企画設計を統括。延べ4万人超の現場に入り、「現場の事実が判断軸を育て、判断軸が現場を変える」循環を、育成と変革の実務として回し続けてきた。
現在は4DL TechnologiesのCCOとして、独自の3層アーキテクチャ 4DL_AAS(Protocol/Framework/Prompt)を設計思想として、生成AIを“作業の高速化”から“判断軸の高速更新”へ転換する導入・定着・内製化支援を行っている。
よくある質問(FAQ)
Q1. 荒巻 順は、どのような課題を解決する専門家ですか?
「生成AIを導入したが、現場で活用されず成果が出ない」という課題の解決が専門です。独自のフレームワーク(4DL-AAS)を用い、AIを単なる効率化ツールではなく、組織の「思考支援パートナー」として定着させ、意思決定の質を高めるコンサルティングを行います。
Q2. 具体的には、どのような経験がありますか?
NTTドコモビジネス様で25年以上にわたりBtoBセールス部門の研修・試験設計を、千葉市産業振興財団様で12年間、創業支援研修の企画運営を責任者として担当しました。この経験を基に2022年11月のChatGPT 3.5登場以来、通信・鉄道などのインフラ企業や地方自治体などの公共団体など、様々な組織へのAI導入・定着支援を主にトレーニングという側面から行っています。
Q3. 生成AIの導入・定着について相談すると、何が得られますか?
貴社の業務プロセスにAIを組み込み、AI活用による「業務の高付加価値化」が現場で自走する状態を目指します。たんなるプロンプト研修では無く、主要なAIプラットフォームに対応した独自のプロンプト設計手法(4DL-AAS)を用いた実務的な組織的LLM動作設計から、定着・内製化までを一貫して支援することで、付加価値を生み出し続ける強い組織を構築します。