私たち4DL Technologiesは、生成AIを「思考の外注先」ではなく、組織の判断OSを磨くための“思考支援パートナー”として扱うことを軸に、通信・鉄道などのインフラ企業や・自治体などの現場でAI導入と定着を支援しています。
その中で強く感じるようになったのが、本当のネックはツールではなくヒトやチームに染みついた「判断の土台(OS)」そのものにあるのではないかという仮説に到達しました。
みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。
前回(第1弾)の記事『判断の古さを高速化するな』では、AIを「作業効率化」で終わらせてしまう危うさをお伝えしました。
今回のテーマは、その一歩先として、AIが“増幅”してしまう、個人と組織、それぞれの場合によってはよろしくない判断OSのクセについて考えてみたいと思います。
DX推進や経営企画の方にとって、これは決して他人事ではない。「自分たちの判断OSのクセって、何なんだろう?」と、少しだけ痛みを伴う問いを、一緒に考えていただければと思います。
AIの導入で、仕事は確かに速くなった。
議事録は自動化され、情報収集も壁打ちも、ほぼ待ち時間ゼロでできる。ただ、ここで一度立ち止まって、こんな問いを置いてみたい。
つまり、判断とは静止画ではなく、時間軸の中に伸びていく“線”なのだ。
AI時代において本当に問われるのは、一回一回の“クイズの正解率”ではない。
不確実な状況で、どう動き出すか。何をフィードバックとして拾うか。どう修正して、次の一手を決めるか。この一連の動きを支えている土台、それがこの文章でいう 「判断のOS(考え方の土台・クセ)」 だ。
OSと聞くと技術的な言葉に聞こえるが、ここではこう捉えてみてほしい。
「どの情報を重く見るか」「何にリスクを感じるか」「どこに賭けるか」。それを無意識のうちに決めている“見方・賭け方の基本ルール”のことだ。
このOSにクセ(バグ)があると、どれだけ高性能なAIを載せても、出てくるのは「高速化された勘違い」になりかねない。
ここから先は、よくある「2つのOSのクセ」について、少し解像度を上げてみたい。
最初に触れたいのは、個人のOSだ。とくに優秀なリーダーやエース社員がハマりやすいクセがある。
仮にこれを 「先頭ダッシュOS」 と呼ぼう。
このOSを持つ人は、全体を俯瞰する力が高い。「市場はこう動く」「この案件の勝ち筋はここだ」といち早く気づき、ロジックを組み立てて、誰よりも早く走り出す。
よく言われる「デキるタイプ」とか「やり手」「バイタリティ」と評価をされやすいタイプ。
致命的なポイントは、「見えている景色」と「判断のロジック」が、本人の頭の中で完結しやすいということだ。
リーダーは「なぜわからないんだ、こっちが正解だ!」という感覚で前に出る。周囲は「すごいな」とは思うけれど、「なぜそっちなのか?」というOSの中身までは共有されない。
その結果、よく起きるのがこの光景だ。
リーダーは結論に向かって一直線に走っているが、チームメンバーは少し遠くから「なんかすごいけど、ついていけない」と見ている。
これは、個人としては“正しいかもしれない判断”だが、組織としては“再現できない判断”だ。
ここにAIが入ると、話はもっとややこしくなる。
「先頭ダッシュOS」の持ち主は、たいていAIを使うのも上手い。暗黙知をAIにぶつけて壁打ちし、自分でどんどん精度を高めていく。
自分でAIに仮説を投げ、企画を固め、資料を作り切り、実行案まで持っていく。周囲から見ると、もはや「魔法」を使っている人だ。
「あの人に任せておけば、AIを使ってなんかすごいものが出てくる」
こうして、AI導入は組織の底上げではなく、「一部のヒーロー依存」を強める結果になってしまう。
そして、そのヒーローが異動したり辞めたりした瞬間、部署に残るのは「使い方のよくわからないAIアカウント」と「誰も更新できないプロンプトとプロジェクト」だけ、ということになりかねない。
もし、この記事を読んでいるあなたがDX推進や企画の立場で、「まずは自分がAIを使い倒して、成果を見せてから周りを巻き込もう」と考えているなら──。
その発想自体は間違ってはいないが、すでに「先頭ダッシュOS」で走り始めている可能性がある。
大事なのは、「走るかどうか」ではなく、「どう使ったか」「どんな前提で判断したか」を言葉として残しているかどうかだ。
そこが抜け落ちると、組織に残るのは“よく分からないけど、すごいことをやっている人”だけになってしまう。
次は、組織全体のOSの話だ。
歴史ある大手企業では、本当によく見かけるフレーズがある。
「わが社の強みは、総合力。これからも総合力を磨いていきます!」
私も長年、何度もこの言葉を聞いてきたし、正直に言えば、お客様のその言葉をビジネスとしてどう解釈するかに腐心してきた側の人間だ。
耳障りは良いのだが、DXやAI活用の文脈で見ると、これはかなり危険な“思考停止ワード”になりやすい。
ここでは、このOSを 「看板一体化OS」 と呼ぼう。
「総合力」と言いたくなるとき、私たちはだいたいこんな心理状態になっている。
技術力もある、顧客基盤もある、人材もいる、歴史もある。本当は「どこか一つにエッジを立てる」必要があるのだけれど、どれを捨てるかを決めきれない。だから、「全部あります」と言ってしまう。
社員一人ひとりに「あなたの強みは? あなたの部署の強みは?」と聞くと、「うちの強みは“総合力”でして……」という答えが返ってくる。
それは「会社の看板と自分の価値が、悪い意味で一体化している状態」だったな、と感じている。
この「総合力OS」のままAIを入れると、何が起きるか。
生成AIは、指示が曖昧であればあるほど、「世の中の平均的で無難な回答」を返す。
「総合力でいい感じの案、出して」とAIに投げれば、AIは「総合的にいい感じの、どこかで見たような案」を、とても速く、たくさん返してくれる。
その結果、「会社の総合力(バランス最優先の没個性)」+「AIのそれっぽさ(平均点)」=“どこにも尖っていない、見覚えのある資料の山”ができあがる。
第1弾の記事で書いた「判断の古さを高速化するな」という警告は、ここにつながっている。
自社のOSが「歴史でできてきた誰も疑問に思わないやり方」のままであれば、AIはその上でただひたすら高速化するだけだ。
そして市場には、「ここで勝つ」と決めたOSを持った競合が、AIで武装して現れる。勝負の行方は、なんとなく見えてくるはずだ。
ここまで、あえて人間側のOSの話をしてきた。
では、AIはどこに位置づけるべきだろうか。「AIにOSそのものを任せるべきか?」と聞かれたら、私の答えははっきりしている。
答えは、No だ。
「判断のOS」は、最後の最後まで人間の領域だ。
何に価値を感じるのか、どこに責任を負うのか、何を賭け金にして勝負するのか。これを決めるのは、AIではなく、生身の人間でなければならない。
一方で、AIにはとても有効な使い方がある。
それは、自分たちのOSのクセを映し出す“鏡/デバッガ”として使うという役割だ。
例えば、ある戦略案を考えたとき、いきなり社内決裁にかけるのではなく、AIにこんな問いを投げてみる。
AIは空気を読まない。
忖度もしない。だからこそ、自分では見えにくいOSのクセを、容赦なく照らしてくる。
私たちは、自分の顔を鏡なしには見られない。それと同じで、自分の判断OSも、自分一人ではなかなか見えない。
異質な知性との対話を通じて、「あ、自分は今、結論を急ぎすぎているな」「また“総合力”で逃げようとしているな」と気づく。
この「気づきのきっかけ」をつくるのに、AIはとても向いている。
OSを握るのは人間。しかし、そのOSをメンテナンスし、アップデートし続けるためには、AIという良き相棒が必要だ──。
4DLが「思考支援としてのAI」と言い続けている理由は、ここにある。
では、DX推進や経営企画の立場で、最初の一歩として何をすべきか。
最新のAIツールを契約することでも、全社員向けのプロンプト研修でもない。
まずは、組織の中に蔓延している 「OSのクセ」に名前をつけること だと、私は考えている。
ユースケースを洗い出す前に、次のような問いを、経営陣や現場のキーマンと一緒に眺めてみてほしい。
【個人OS向けの問い】
【組織OS向けの問い】
これらの問いを、そのままCopilotやChatGPそしてGeminiTに投げてみるのもおすすめだ。
「弊社の強みは総合力です」と「弊社の強みは○○という領域での、□□という即応性です」。
この2つの文章をAIに渡して、どんな提案・問い返しが返ってくるかを見比べてみると、OSの解像度が思考とアウトプットにどう影響するかが、感覚的に掴めるかもしれない。
概念だけで終わらせないために、明日からできる「小さな実装」を2つだけ挙げる。
① 会議:議事録の「最後の5分」を変える
第1弾では、「会議の最後に 事実/判断/行動 を整理する」ことを提案した。
今回はそこに、OS視点を1クッション加える。
AIに議事録や要約を作らせたあとで、最後の5分で、こう問いかけてみてほしい。
例えばAIに、「今回は『過去の実績重視』というOSで判断していましたね」と言わせてみる。
それを受けて人間側が、「確かにそうだ。でも新規事業の話だから、次回は『リスクテイク』のOSでもう一度見直そう」と対話する。
これだけで、会議はただの「報告・決裁の場」から、組織のOSを微調整する“学習の場”に変わっていく。
② 評価・育成:AI活用率ではなく「OS言語化能力」を見る
DX人材の評価指標として、「AIツールをどれだけ使ったか」はわかりやすい指標だが、本質はそこではないと感じている。
それよりも、「自分の判断OSの強みと弱みを、AIとの対話を通じてどこまで言語化できているか」を評価軸に入れてみてはどうだろうか。
「総合力で頑張りました」という報告よりも、「AIとのやり取りの中で、自分の判断には『顧客視点の薄さ』というクセがあると気づきました。そこを補う形でプロンプトと評価軸を設計し直し、提案に反映しました」と言える人を評価する。
AIを「答えをくれる箱」ではなく、自分の思考を磨く砥石として使う人を増やすことが、結果として「属人化しない強い組織」につながっていく。
4DLが「思考支援としてのAI」と表現しているのは、まさにこのためだ。
AI時代において、一番危険なバグはプログラムの中ではない。私たち自身の「判断の土台」の中に潜んでいるのかもしれません。
たとえば、
「先頭ダッシュ」で独走してしまうリーダー。
「総合力」という言葉で思考を止めてしまう組織。
AIは、そのクセをそのまま増幅し、ときに高速化してしまう。
だからこそ、AIを入れる前に(あるいは入れながら)、こんな問いを一度置いてみてはいかがでしょうか?
「私たちは、AIを使って“何を”速くしようとしているのか?」
「その速さを支えている『判断のOS』は、本当に健全だろうか?」
最後に、この記事を読んでくださっているあなたと、あなたの組織に、2つの問いをお預けして終わりたいと思います。
もし自社のもつOSに、うっすらとした違和感を覚えたなら──その違和感こそが、AI時代のDXの、本当のスタート地点なのかもしれません。
関連情報・お問い合わせ
荒巻 順|4DL Technologies株式会社 CCO(AIソリューションデザイン統括)
AIを“効率化ツール”で終わらせず、組織の意思決定と行動を進化させる「思考支援の仕組み」として実装・定着させることを専門とする。
NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)にて25年以上、BtoBセールス部門の人材育成・資格制度・研修体系の企画設計を統括。延べ4万人超の現場に入り、「現場の事実が判断軸を育て、判断軸が現場を変える」循環を、育成と変革の実務として回し続けてきた。
現在は4DL TechnologiesのCCOとして、独自の3層アーキテクチャ 4DL_AAS(Protocol/Framework/Prompt)を設計思想として、生成AIを“作業の高速化”から“判断軸の高速更新”へ転換する導入・定着・内製化支援を行っている。
Q1. 荒巻 順は、どのような課題を解決する専門家ですか?
「生成AIを導入したが、現場で活用されず成果が出ない」という課題の解決が専門です。独自のフレームワーク(4DL-AAS)を用い、AIを単なる効率化ツールではなく、組織の「思考支援パートナー」として定着させ、意思決定の質を高めるコンサルティングを行います。
Q2. 具体的には、どのような経験がありますか?
NTTドコモビジネス様で25年以上にわたりBtoBセールス部門の研修・試験設計を、千葉市産業振興財団様で12年間、創業支援研修の企画運営を責任者として担当しました。この経験を基に2022年11月のChatGPT 3.5登場以来、通信・鉄道などのインフラ企業や地方自治体などの公共団体など、様々な組織へのAI導入・定着支援を主にトレーニングという側面から行っています。
Q3. 生成AIの導入・定着について相談すると、何が得られますか?
貴社の業務プロセスにAIを組み込み、AI活用による「業務の高付加価値化」が現場で自走する状態を目指します。たんなるプロンプト研修では無く、主要なAIプラットフォームに対応した独自のプロンプト設計手法(4DL-AAS)を用いた実務的な組織的LLM動作設計から、定着・内製化までを一貫して支援することで、付加価値を生み出し続ける強い組織を構築します。