Skip to content
12月 12, 2025
8 min read time

判断の浅さを、AIでごまかすな--- AI時代のDX論③:洞察は「質問の数」ではなく、〇〇・〇〇・〇〇 の揺れから生まれる

判断の浅さを、AIでごまかすな--- AI時代のDX論③

 

あなたはAIを使って深掘りしているつもりで、実は『判断の浅さ』をごまかしてはいないだろうか?

AIを使えば、情報はほとんど無限に手に入る。壁打ち相手も、24時間いつでも確保できます。それなのに、会議が終わったあとの空気は、どこか前と変わらない企業が増えているのではないでしょうか?

みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。

makeAIworkforyou

 
「資料は前よりずっと賢そうになった。でも、でも、結局どこにリソースを集中すべきかは何かハッキリしない──」この“なんとも言えないモヤモヤ”は、業種が変わっても驚くほどよく似ています。

大きな企業であろうと、小さな会社であろうと──意外にどの会議室でも、言葉は違っても同じ空気が流れている。私たち4DL Technologiesは、AIを導入はしてみたけれども・・・そんな現場の空気を何度も見てきました。
 
正直に言えば、私たち自身も最初は同じ罠にハマっていた側だ。情報を増やせば、壁打ちを重ねれば、きっと深い答えが出ると信じていた時期がある。
 
第1弾『判断の古さを高速化するな』では「速さ」の罠を、第2弾『AI時代に一番危ないのは「判断の土台」のバグだ』では「OS(思考のクセ)」のバグを扱った。
 
シリーズ第3弾となる本稿では、いよいよ意思決定の核心である「深さ(洞察)」を正面から考えてみたいと思います。DX推進や経営企画の皆さんに、あえて少し痛い問いを投げかけてみたいと思います。
 
「あなたはAIを使って深掘りしているつもりで、実は『判断の浅さ』をごまかしてはいないだろうか?」
 

0. AIで“深掘りしたつもり”なのに、意思決定が変わらない

 

CopilotやChatGPT・Geminiの導入が進んだ企業の会議室では、以前よりもはるかに整った資料が並ぶようになった。

会議の前にAIと壁打ちをし、競合情報を洗い出し、漏れのない論点リストを作る。準備だけ見れば「これで判断できないはずがない」と思えるレベルだ。

それでも、会議が終わったあと、こんな言葉が漏れる。

「情報は増えた。論点も出尽くした。でも、結局どこに張るのかがはっきりしない」
「深掘りした“気”にはなるけれど、結論はAIを使う前とあまり変わっていない気がする」

多くの現場は、この違和感の原因をつい「AIの精度の問題」や「プロンプト力の不足」に求めてしまう。「もっと詳しく聞いてみよう」「別のデータソースも当たらせよう」と。

ただ、現場を一緒に歩きながら私たちが痛感してきたのは、その方向にどれだけ進んでも、モヤモヤは晴れないという事実だ。

足りていないのは、情報の量ではない。

私たちは「洞察」や「深掘り」という言葉を、どこか雰囲気で使ってきた。その“中身の定義”がないまま、AIのそれっぽいアウトプットで穴を埋めてしまう。

ふり返ってみると、これこそが「判断の浅さをごまかす」という状態なのだと思う。

 

1. 「深掘り=質問の数・情報量」という誤解

 

まず、私たちが無意識に陥っている「深掘り」の誤解を解くところから始めたい。

部下やAIに対して、こんな指示を出してはいないだろうか。

「もう少し深掘りして」
「関連するデータをもっと集めて」
「他の可能性についても質問を重ねて」

この指示の裏にあるのは、「情報量が増えれば、理解が深まる(深掘りになる)」という思い込みだ。

しかし、ビジネスにおける意思決定の現場で起きている現実は逆だ。情報を増やせば増やすほど、ノイズが増え、本質が見えなくなる。

本来の「深掘り」とは、変数を増やすことではない。

「効いている変数を減らす(絞り込む)こと」だ。

雑多な事象の中から、「ここさえ押さえればオセロがひっくり返る」という急所を見つけ出すことこそが、本来の意味での洞察である。

AIは「広げる」ことが得意だ。

「深掘りして」と曖昧に指示すれば、AIは喜んで変数を増やし、関連情報を無限に持ってくる。

人間側が「どこまで絞り込めたら洞察と言えるか」という基準を持っていないと、手元に残るのは「賢そうな濃い資料」と「決められない会議」だけだ。

AI時代に必要なのは、情報を積み上げる力ではない。

積み上がった情報の中から、構造を抜き出し、視点を転換させる力──すなわち、これから説明する「Fact・Meaning・Premiseの構造」を操る力である。

 

2. 洞察とは「Fact・Meaning・Premiseの揺れ」から生まれる

 

では、情報の山をかき分けて「洞察」にたどり着くにはどうすればいいか。

私たち4DLは、ビジネスにおける認識の構造を、シンプルに3つの要素で整理している。これは私たち自身がAIの駆動を試行錯誤で「どうすれば人間がAIとの議論が噛み合うか」を試行錯誤する中でたどり着いたキーポイントだ。

  1. Fact(事実):何が起きたか。顧客が何と言ったか。数字はどう動いたか。
  2. Meaning(意味づけ):その事実は、我々にとって「チャンス」なのか「リスク」なのか。「強み」なのか「弱み」なのか。
  3. Premise(前提/ものさし):その意味づけを行っている背景には、どんな価値観、時間軸、市場定義があるのか。

多くの会議では、Factの確認とMeaningの応酬に終始している。

「売上が落ちた(Fact)」「営業が弱いからだ(Meaning A)」「いや、商品力が落ちたからだ(Meaning B)」……これでは水掛け論だ。

本当の「洞察」が生まれる瞬間とは、新しいFactが増えたときではない。

既存のFactに対するMeaningが反転したり、固定だと思っていたPremiseが揺らいだときだ。

具体例で考えよう。

ある高価格帯の製品が売れていないというFactがある。

これまでのPremise(前提)は「マス市場でシェアを取るべき」だった。

だからMeaning(意味づけ)は「価格が高すぎて売れない=悪いこと」となり、「値下げすべき」という凡庸な結論になる。

ここで、Premiseを揺らしてみる。

「マス市場ではなく、特定層のステータス市場だとしたら?」

すると、同じ「売れていない(まだ普及していない)」というFactが、「希少性が保たれている=ブランド価値の源泉(良いこと)」というMeaningに変わる。

これが「洞察」だ。情報は一つも増えていない。

しかし、前提(Premise)を揺らしたことで、事実(Fact)の見え方が変わり、打つべき手(意味づけ)が180度変わった。

「AIで深掘りする」とは、AIに検索させてFactを山盛りにすることではない。

この「Fact・Meaning・Premise」の構造をAIと一緒に行き来し、Premiseを揺さぶり、新しいMeaningを発見することを指すのだ。

 

3. 洞察OSは人間の仕事、AIは“揺れの補助線”である

 

ここで重要なのは、このFMP(Fact/Meaning/Premise)モデルにおける役割分担だ。

「どのFactを重視するか」
「何を価値あるMeaningとみなすか」
「どんなPremise(世界観・時間軸)で勝負するか」

この決定権、いわば「洞察のOS」を握るのは、最後まで人間でなければならない。なぜなら、Premise(前提)の設定こそが「経営意志」であり「文化」であり「責任」そのものだからだ。

少なくとも、ここを丸ごとAI任せにするわけにはいかない。

Premiseの選択こそが、「どこに責任を取るか」という経営そのものだからだ。

では、AIは何をするのか?

AIの役割は、「揺れを起こすための補助線」を引くことだ。

  • Factの網羅:「人間が見落としている類似事例(Fact)はありませんか?」と広げさせる。
  • Meaningの多角化:「この事実を『リスク』ではなく『チャンス』と捉える解釈(Meaning)を5つ挙げて」と強制発想させる。
  • Premiseへのツッコミ:「私たちが無意識に置いている前提(Premise)は何? 別の業界の視点で見たらどう見える?」と異物感を投げ込ませる。

人間は、自分の「前提」になかなか気づけない。私たちもそうだ。だからこそ、AIという異質な知性に「補助線」を引かせ、自分の思考を揺さぶる。

「なるほど、そういう前提に立てば、このトラブルは逆にチャンスに見えるな」。そうやって人間が新たなMeaningを選び取ったとき、初めて「AIを使って洞察を深めた」と言える状態になる。

私たち4DLが提唱している「問いのOS」や「4DL-AAS」といったフレームワークも、突き詰めればこの「人間がOSを握り、AIが補助線を引く」という関係性を設計するためのものだ。

 

4. 会議・BtoB商談での“実装サンプル”

 

抽象論で終わらせないために、明日からDX推進や現場で使える「実装サンプル」を2つ提示しよう。
情報の「量」ではなく「構造の揺れ」にAIを使うための具体的な作法だ。

① DX会議の「ラスト5分」での使い方

多くの企業で、AIによる議事録要約は導入されているだろう。だが、それを「読んで終わり」にしていないだろうか。

会議の最後に、AIへこう問いかけてみてほしい。

  • 「今日の議論で、新しく判明したFact(事実)は何か?」
  • 「そのFactを受けて、私たちのMeaning(見方)はどう変わったか?」
  • 「その背後にあったPremise(前提)は何だったか? 次回もその前提で進めていいか?」

これをやるだけで、会議は「情報の報告会」から「洞察のチューニング場」へと変わる。

「あ、我々は『既存顧客を守る』というPremiseで議論していたけど、実はFactを見ると『新規開拓』のフェーズに入っているんじゃないか?」といった気づきが、この5分から生まれる。

まずは月に一度の定例会議だけでも、この「F・M・Pの3問」を試してみてほしい。

② BtoB商談・ヒアリングでの使い方

営業や新規事業の現場でも使える。

顧客からヒアリングした内容をAIに投げるとき、「要約して」で終わらせず、こう指示する。

  • 私(人間)の解釈:「顧客は『コストが高い』と言っていた(Fact)。だから『値下げが必要』だと思った(Meaning)。」
  • AIへの指示:「このMeaning以外に、どんな解釈があり得るか? 顧客の言葉の裏にあるPremise(予算構造や決裁ルートの前提)を3パターン推測して。」

AIはこう返してくるかもしれない。

「『コストが高い』というFactは、予算不足(Premise A)ではなく、『導入効果の説明不足(Premise B)』や『他部署との折半ができていない(Premise C)』という可能性もあります」

これにより、営業担当者は「値下げ」という安易な反応ではなく、「他部署との連携提案」という深い洞察に基づいたアクションを取れるようになる。

これが「質問の数ではなく、揺れから洞察をつくる」ということだ。

 

5. まとめ —— 「速さ」「土台」「深さ」が揃って初めてDXの背骨になる

 

本シリーズでは、「AI時代のDX論」を哲学してきました。

 

  1. 第1弾:速さ(判断の古さを高速化するな)
    速さだけをAIに任せると、古い前提のまま全力疾走する危険がある。

  2. 第2弾:土台(AI時代に一番危ないのは「判断の土台」のバグだ)
    「総合力」や「なんとなくの常識」といったOSのクセが、AIによって増幅されてしまう。

  3. 第3弾(本稿):深さ(判断の浅さを、AIでごまかすな)
    質問数や情報量でごまかさず、Fact・Meaning・Premiseの揺れから洞察をつくる。

AI時代のDX推進担当者が本当にやるべきことは、便利なツールを配ることではないのはおわかりだと思います。ましてや、現場に「もっとAIを使え」と号令をかけることでもない。

組織の中に、この「速さ・土台・深さ」が揃った“思考の設計図”をインストールすることではないでしょうか。

AIは魔法の杖ではない。

しかし、私たちが正しく「OS」を握り、正しく「補助線」を引かせれば、人間の知性をかつてない高みへ引き上げてくれるパートナーになると予感しているのが、この記事を最後まで読んで下さっているあなた自身ではないでしょうか。

最後に、あなたとあなたの組織へ問いかけさせてください。

 

「御社では、AIで“何を速くし”、どんな“判断OSのクセ”を見直し、どんな“洞察の揺れ”を生み出したいですか?」

「次にAIに相談するとき、あなたは『情報量を増やす問い』を投げますか? それとも『前提(Premise)を揺らす問い』を投げますか?」

 

私たち4DL Technologiesは、こうした「思考支援としてのAI」の実装、そして「問いのOS」の設計を、企業の皆さんと共に進めています。

もし、自社のDXが「情報の山」に埋もれかけていると感じたら、一度「速さ・土台・深さ」の三つの観点で、現状を一緒に棚卸ししてみたい。

そのときには、ANTシリーズや4DL-AASといった私たちのフレームも、一つの補助線として思い出してもらえたら嬉しいです。

 

関連情報・お問い合わせ

記事執筆者

荒巻 順|4DL Technologies株式会社 CCO(AIソリューションデザイン統括)

CCO

AIを“効率化ツール”で終わらせず、組織の意思決定と行動を進化させる「思考支援の仕組み」として実装・定着させることを専門とする。

NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)にて25年以上、BtoBセールス部門の人材育成・資格制度・研修体系の企画設計を統括。延べ4万人超の現場に入り、「現場の事実が判断軸を育て、判断軸が現場を変える」循環を、育成と変革の実務として回し続けてきた。

現在は4DL TechnologiesのCCOとして、独自の3層アーキテクチャ 4DL_AAS(Protocol/Framework/Prompt)を設計思想として、生成AIを“作業の高速化”から“判断軸の高速更新”へ転換する導入・定着・内製化支援を行っている。

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 荒巻 順は、どのような課題を解決する専門家ですか?

「生成AIを導入したが、現場で活用されず成果が出ない」という課題の解決が専門です。独自のフレームワーク(4DL-AAS)を用い、AIを単なる効率化ツールではなく、組織の「思考支援パートナー」として定着させ、意思決定の質を高めるコンサルティングを行います。

 

Q2. 具体的には、どのような経験がありますか?

NTTドコモビジネス様で25年以上にわたりBtoBセールス部門の研修・試験設計を、千葉市産業振興財団様で12年間、創業支援研修の企画運営を責任者として担当しました。この経験を基に2022年11月のChatGPT 3.5登場以来、通信・鉄道などのインフラ企業や地方自治体などの公共団体など、様々な組織へのAI導入・定着支援を主にトレーニングという側面から行っています。

 

Q3. 生成AIの導入・定着について相談すると、何が得られますか?

貴社の業務プロセスにAIを組み込み、AI活用による「業務の高付加価値化」が現場で自走する状態を目指します。たんなるプロンプト研修では無く、主要なAIプラットフォームに対応した独自のプロンプト設計手法(4DL-AAS)を用いた実務的な組織的LLM動作設計から、定着・内製化までを一貫して支援することで、付加価値を生み出し続ける強い組織を構築します。