聴くチカラ研究所|4DL Technologies株式会社

DXを「時短ツール」で終わらせるな ──20年前の原点から問い直す、“価値変革DX”というもう一つの本道 ---AI時代のDX論④

作成者: 荒巻順|2025/12/19 15:00:00

DXを「時短ツール」で終わらせるな

「AIを入れて、業務時間が20%削減されました」
「議事録作成が自動化され、残業が減りました」

DXの現場から聞こえてくるのは、こうした「効率化」の報告ばかりです。もちろん、それは素晴らしい成果です。否定されるべきものではありません。

しかし、私たち4DL Technologiesが多くの企業の現場に伴走する中で、どうしても拭えない違和感があります。

 
「便利にはなった。楽にはなった。でも、ビジネスの勝率は上がるのだろうか?
 
この問いに自信を持って「Yes」と答えられる企業は、驚くほど少ないのが現状です。
 
この20年間、いやここ数年のDXブームが一生懸命取り組んできた多くは——自戒を込めて言えば、私たち4DL自身も含めて——「既存の業務をデジタルに置き換えただけ」の“電子化プロジェクト”に過ぎなかったのかもしれません。
 
本連載ではこれまで、第1弾で「速さ」、第2弾で「判断の土台(OS)」、第3弾で「洞察の深さ」について論じてきました。
シリーズ第4弾となる本稿では、いよいよこれらの議論の土台となる「DXそのものの定義」に踏み込みます。
 
生成AIの登場は、単なる「便利な道具」の追加ではありません。「DX」という言葉が本来持っていた意味を、ようやく実現できる環境が整ったという合図なのです。
 
今日は、20年前の原点に一度戻り、そこから未来への補助線を引いてみたいと思います。
 

みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。

0. はじめに:なぜ今、「DXそのもの」を問い直すのか

連載のこれまでを少し振り返ろう。

  • AIを使えば作業は速くなるが、判断のOSが古ければ「迷走」が加速するだけだ(第1弾)
  • そのOSには「総合力」や「先頭ダッシュ」といった日本企業特有のバグがある(第2弾)
  • そして、情報量を増やすだけでは洞察にはならず、Fact・Meaning・Premiseを揺らす必要がある(第3弾)

これらはすべて、ある一つの結論に向かっている。

それは、「AIを“今の仕事”にくっつけるだけでは、本質的な変化は起きない」ということだ。

生成AIは、私たちの仕事を「2時間から10分」に短縮してくれる。これが今の主流のDXだ。しかし、本当の破壊力はそこではない。

「2時間あれば、これまで1ヶ月かかっていた“価値の検証(試行錯誤)”を回しきれる」ここにあると、4DL Technologies株式会社では考えている。

ここから記事は、「何にAIを使うか」ではなく、「何を変えることをDXと呼ぶのか」を一緒に決めにいく話だ。

「短縮」に使うか、「濃縮」に使うか。この分岐点が、これからの企業の生存確率を分けるのではないだろうか。

 

1. DXの原点を見直す:Stolterman 2004 が言ったこと/言っていないこと

 

そもそも、DX(Digital Transformation)という言葉はどこから来たのか。

定説とされているのは、2004年、スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン(Erik Stolterman)らが発表した論文『Information Technology and the Good Life』だ。

彼はそこで、こう述べている。

"The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life."

(デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術が人々の生活のあらゆる側面に引き起こす、あるいは影響を与える変化として理解できる)

ここで注目すべきは、彼が言っているのはあくまで「あらゆる側面での変化(changes)」であり、それが自動的に「良い方向へ進む」とは言っていない点だ。

テクノロジーは環境を変える。それがポジティブになるかネガティブになるかは、使い方次第だ。

しかし、日本でDXが広まる過程で、この定義には少し“盛られた”解釈が加わった。

「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」

この「より良い方向に」という言葉が加わったことで、私たちは無意識のうちにこう思い込んでしまったのではないだろうか。

「デジタル化すれば、自動的に良くなるはずだ」と。

ここにも、私たち4DL Technologies株式会社の立ち位置がある。

DXとは、「テクノロジーがもたらす不可避な変化(Digital)」と、「その中から“望ましい変化”を意志を持って設計・選択する仕事(Transformation)」の掛け算だ。

テクノロジー任せでは、変化は起きても「進化」にはならない。「何をもって“良し”とするか」という人間の意志(判断OS)がセットになって初めて、DXは成立する。

 

2. 「便利DX」の20年:効率化と“よくあるKPI”に閉じ込められた現場

 

2004年の提唱から約20年。日本の現場で起きていたのは、残念ながら「意志ある変革」ではなかったのではないだろうか。

多くの企業が進めたのは、「紙の削減」「ハンコレス」「クラウド移行」といった、“マイナスをゼロに戻すための効率化”だ。

正直に言えば、私たち自身もその波の中にいた。「これで現場が楽になりますよ」と提案し、削減時間をKPIにしてきた過去がある。

「2時間の作業が10分になりました」という成果に、安堵していた時期もあった。

ただし、これまでの効率化DXが“間違っていた”わけではない。

むしろ、「余白(時間とリソース)」を生み出すための“前座”としては必要不可欠だった。

問題は、その余白を「価値の試行錯誤」ではなく、「別の作業」や「会議」で埋めてしまったことにある。

結局、「既存のプロセスの枠内」で処理速度が上がっただけで、ビジネスの構造や提供する価値そのものは変わっていなかった。

ベンダー側は「ROI(費用対効果)」を説明しやすい効率化を提案し、企業側も短期的な回収を求めた。その共犯関係の中で、DXはいつしか「業務改善プロジェクト」の同義語になってしまったのだ。

「便利になったが、勝てるようにはなっていない」。
この閉塞感の正体は、私たちがせっかく作った「余白」を、投資に回せてこなかったことにある。

 

3. 生成AIが変えた前提:2時間の短縮ではなく「2時間で1ヶ月分の価値」を試作する

 

そこに現れたのが、生成AIだ。

多くの人は、これを「もっとすごい時短ツール」として見ている。「メールが一瞬で書ける」「議事録がいらない」。確かにそうだ。しかし、それはガラケーがスマホになったのに、通話機能しか使っていないようなものだ。

生成AIの本質的な価値は、「価値を生むコンテンツの一次試作コストが、ほぼゼロになったこと」にある。

これまで、新規事業の企画書を作り、ターゲットペルソナを描き、LP(ランディングページ)のラフを書き、想定問答集を作るには、チームで動いても1ヶ月はかかっていた。

それが今、CopilotやChatGPTと壁打ちすれば、2時間で「たたき台」どころか、3〜4パターンの比較案まで出力できる。

ここでの「2時間」の意味が変わっていることに気づいてほしい。

「本来2時間かかる作業を10分にする(時短)」ではない。

「本来1ヶ月かかる価値検証のサイクルを、2時間で回し切る(濃縮)」のだ。

例えばこういうことだ。

「2時間あれば、AIの中でマーケットシミュレーションを行い、プランA/B/Cを戦わせ、現場に出す前に“価値の見込みがある案”だけをふるいにかけることができる」

失敗をAI空間の中で高速に済ませ、成功確率の高い弾だけを現実に撃つ。これが、生成AI時代における「スピード」の本当の意味だ。

 

4. DXを「Digital Transformation」から「Value Transformation」へ再定義する

 

ここまでの議論を踏まえ、4DL Technologies株式会社はDXをこうお客様に問いたい。

本当に実現したいのは 「Value Transformation(価値変革)」ではなかったのか?

デジタル(Digital)は、もはや手段であり、空気のような前提だ。生成AIによって、「試作」と「検証」のコストは極限まで下がった。

ならば、私たちが向き合うべき本丸は、「どうやって楽をするか」ではなく、「どうやって新しい価値を創るか」に移らなければならない。

これまでの連載とつなげて考えてみよう。

  • 速さ(AI): 価値仮説の生成と検証サイクルを爆速化させるエンジン。
  • 土台(人間OS): 「誰にとっての価値か」「何を良しとするか」を決める判断軸。
  • 深さ(F/M/P): Fact・Meaning・Premiseを揺らしながら、独りよがりではない洞察を導き出すプロセス。

これらが組み合わさったとき、DXは「業務効率化」の殻を破り、「ビジネスモデルや顧客体験そのものを書き換える営み」へと進化する。

 

5. Digital Twin × 生成AI:ビジネスを“先にAI空間で回す”DXの実例

 

「価値変革」と言われても抽象的に聞こえるかもしれない。

わかりやすいアプローチとして、「AI空間でビジネスを先に回してから、現実に出す」という手法を紹介しよう。いわゆる「Digital Twin(デジタルツイン)」の発想を、ビジネスプロセスに応用するものだ。

従来、新しい価格プランや施策を導入する際は、一部の店舗でテスト導入し、数ヶ月かけてデータを取っていた(現実世界での実験)。これにはコストもリスクも伴う。

これを、AI空間で先にやるのだ。

  1. 自社の顧客データや市場データを元に、AI内に複数の「仮想顧客ペルソナ」を生成する。
  2. そのペルソナたちに、新価格プランA・B・Cを提示し、反応(購入意欲、不満点、競合への流出率など)をシミュレーションさせる。
  3. AI空間内で何百回もの「仮想対話」を回し、最もLTV(顧客生涯価値)が高くなるプランの当たりをつける。
  4. その「勝ち筋候補」だけを、現実の店舗でテストする。

デジタルツインというと、工場のラインや都市シミュレーションのような大規模なものを想像するかもしれないが、生成AI時代のデジタルツインはもっと身近だ。

企画、マーケティング、営業トークのスクリプト。これらすべてにおいて、「AI空間で先に回す」ことが可能になっている。

これなら、現実のブランドを傷つけるリスクも、無駄な開発コストも最小限に抑えられる。そして何より、圧倒的に速い。
これこそが、単なる効率化を超えた、「価値創造プロセスそのものの変革(DX)」だ。

 

6. DX推進が明日から変えるべき“問い”と“評価軸”

 

では、DX推進や経営企画のリーダーは、明日から何を変えればいいのか。現場に投げかける「問い」と、プロジェクトの「評価軸」を変えることだ。

ここで挙げる問いと評価軸は、本連載で扱ってきた4つのテーマを、そのまま現場にインストールするための“変換表”でもある。

 

テーマ 従来の問い(Before) これからの問い(After)
① 速さ 何時間削減したか? 月に何回、価値仮説を回せるようになったか?
② 土台 ツールをいくつ導入したか? どんな「判断OSのクセ」に気づき、言語化できたか?
③ 深さ どれだけ資料を集めたか? Fact/Meaning/Premise がどれだけ揺れたか?
④ 価値 どれだけコストを減らしたか? どれだけ新しい「価値の種」をAI空間で試せたか?

評価軸が変われば、現場の行動が変わる。

「楽をすること」ではなく、「挑戦の回数を増やすこと」が称賛されるようになる。

私たち4DLが提供している非エンジニアをAI時代のDXの主役にするトレーニング『ANTシリーズ』も、ツールそのものではなく、この「問いと評価の転換」を組織に実装するためのプロトコル(手順書)として設計されている。

 

7. まとめ:20年前のDXにAIを貼り付けないための「問い」

 

DXという言葉が生まれて20年。

私たちは今、ようやくその原点──「テクノロジーによるあらゆる変化」の中から、「自分たちにとっての真の価値」を選び取れる武器を手に入れた。

その武器(AI)を、20年前の「業務効率化」という古いDXの上に、ただの便利な機能として貼り付けるのか。

それとも、AIがもたらした「爆速の価値検証」という現実を前提に、DXの意味そのものを再定義するのか。

答えは、明白なはずだ。

これまでの「効率化DX」を否定する必要はない。そこで生まれた余白を、次は「価値の変革」に使えばいい。

最後に、あなたとあなたの組織へ問いかけたい。

御社にとってのDXは、まだ“業務をデジタルに置き換えるプロジェクト”ですか?

それとも、

『AI空間で先に学習した価値の変化』を現実に展開するための仕組みづくりですか?

 

この連載を通じて語ってきた「速さ」「土台」「深さ」、そして今回の「価値変革」。

これらが一本の背骨として通ったとき、あなたの組織のDXは、借り物ではない本物の強さを帯びるはずだ。

関連情報・お問い合わせ

記事執筆者

荒巻 順|4DL Technologies株式会社 CCO(AIソリューションデザイン統括)

AIを“効率化ツール”で終わらせず、組織の意思決定と行動を進化させる「思考支援の仕組み」として実装・定着させることを専門とする。

NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)にて25年以上、BtoBセールス部門の人材育成・資格制度・研修体系の企画設計を統括。延べ4万人超の現場に入り、「現場の事実が判断軸を育て、判断軸が現場を変える」循環を、育成と変革の実務として回し続けてきた。

現在は4DL TechnologiesのCCOとして、独自の3層アーキテクチャ 4DL_AAS(Protocol/Framework/Prompt)を設計思想として、生成AIを“作業の高速化”から“判断軸の高速更新”へ転換する導入・定着・内製化支援を行っている。

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 荒巻 順は、どのような課題を解決する専門家ですか?

「生成AIを導入したが、現場で活用されず成果が出ない」という課題の解決が専門です。独自のフレームワーク(4DL-AAS)を用い、AIを単なる効率化ツールではなく、組織の「思考支援パートナー」として定着させ、意思決定の質を高めるコンサルティングを行います。

 

Q2. 具体的には、どのような経験がありますか?

NTTドコモビジネス様で25年以上にわたりBtoBセールス部門の研修・試験設計を、千葉市産業振興財団様で12年間、創業支援研修の企画運営を責任者として担当しました。この経験を基に2022年11月のChatGPT 3.5登場以来、通信・鉄道などのインフラ企業や地方自治体などの公共団体など、様々な組織へのAI導入・定着支援を主にトレーニングという側面から行っています。

 

Q3. 生成AIの導入・定着について相談すると、何が得られますか?

貴社の業務プロセスにAIを組み込み、AI活用による「業務の高付加価値化」が現場で自走する状態を目指します。たんなるプロンプト研修では無く、主要なAIプラットフォームに対応した独自のプロンプト設計手法(4DL-AAS)を用いた実務的な組織的LLM動作設計から、定着・内製化までを一貫して支援することで、付加価値を生み出し続ける強い組織を構築します。