生成AIを1つに絞れば、操作はたしかにラクになります。
しかし、64歳の非エンジニアとして現場の最前線でAIと向き合い続けてきた私が辿り着いた結論は、残酷なほどシンプルでした。
「1つに絞るほど、人間が疲弊し、アウトプットの精度が落ちる」
みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。
理由は明快です。AIには逃れられない「癖」があるからです。
1つのモデルに付き合い続けると、いつの間にか人間がAIの「機嫌」を伺い始めるようになります。
チャットは不毛に長くなり、精度は目に見えて落ち、最後には担当者がこう漏らすのです。
「AI、便利だけど……結局、使うの大変だよね」と。
そこで私は、発想を変えました。AIを単なる「便利な道具」として扱うのをやめ、「3人の性格が違う参謀」としてチーム編成したのです。
これで、仕事の質は別物になりました。
実際、私はコンサルティングセールスの専門家としての企画書の作成において、20時間かかっていた工程を5時間に短縮し、なおかつ「お客様の核心を突く」質を生成AIを3つ使い分けることで劇的に向上させました。
今日は「どのAIが最強か」という不毛なスペック比較ではなく、現場で本当に血肉となる「AIチーム運用」のリアルをお話しします。
前世代から推論能力が劇的に進化。単なる回答生成ではなく「なぜその結論に至ったか」の論理構成がより堅牢になりました。議論の前提を疑う「企画の壁打ち」において、今なお最強の座を維持しています。
「Built for speed」を体現する超高速モデル。膨大なドキュメントを一瞬で処理するコンテキストウィンドウがさらに強化され、複数の社内資料を瞬時に読み解き、実務的な素材を量産する速度が桁違いに向上しました。
日本語の情緒や文脈の理解度がさらに洗練。前バージョンで評価の高かった「自然な筆致」に加え、複雑な指示を正確に反映する「職人」のような丁寧さが強化。企画を「読ませる文章」に仕上げる力は圧倒的です。
今年、おつき合いのあるエンタープライズ企業のDX推進部門主導で全社向けに展開するAI定着研修を担当しました。
もともとの設計の主眼は「AIの威力を体験してもらうこと」。
これはこれで一定の手応えはありました。しかし、来年度に向けてお客様から非常に重く、鋭い指摘をいただきます。
「体験としてはいい。でも、これでは現場の実務に持ち帰れない」
この「実務への道筋が薄い」という重く鋭い指摘を、自分自身の今までの研修設計の経験を交えて生成AIと色々な角度から深掘りしたとき、たどり着いた仮説に愕然としました。
「企画」という言葉が、現場の日常語ではなかったのです。
現場のマネージャーたちにとって、業務の「企画」は本社や専門部署の仕事。
私たちが誰にでも刺さるだろうと考えた「AIで企画をゼロからつくる」というテーマ自体が、入口で現場出身の彼らには陳腐な体験会になっていたのです。
研修内容の質以前に、言葉を企画設計者として掘り下げ切れていなかった。これが、研修現場で起きていた「Alignment(不整合)」でした。
そこで私は、3つのAI参謀と共に研修のコンセプトをお客様からいただいた有り難いご指摘と合わせて、来年度に向けて根底から見直すことにしました。
3つのAI、あえて3人と表現しますがそれぞれのもつLLMの動作特性を更に発揮して貰うためのシステムプロンプトを4DLオリジナルのLLM駆動アーキテクチャで設計し、それぞれに実装して以下の様な思考動作をする生成AIとしました。
3人のAIと議論し、導き出した来年度に向けての結論はこうです。
「私たちが言うAIでの『企画』とは、あなたの仕事のボトルネックを消すための設計としよう!」
この一文に変えた瞬間、来年度の研修企画は「どの現場でも使える」「誰にでも自分事になる」というAI定着施策に変身を遂げることになりました。※この研修はANTシリーズの派生モデルとして近いうちに公開させていただきます。
業種業態だけではなくどの企業でもある、部門固有の業務知識や業務スタイルに踏み込む必要はない。
しかし、「どの部署にも必ずあるボトルネックを、AIでどう消すか」。
この一点にフォーカスしたことで、次年度の実務直結型プログラムに向けて新たなAIの付加価値をお客様に提供すべく動き出したのです。
私自身、研修など人材育成の企画と設計を30年近く専門としてきました。ですので、企画書や設計を言語化するのは得意分野です。
今までも生成AIをつかって企画書作成をしていましたが、今回3つの生成AIと私も含め4人体制で行うことは劇的な変化をもたらしました。※以下は、一般的な企画書作成のプロセスとは表現が異なるかもしれません。荒巻順流の企画書作成の流れと言うことでご理解ください。
| 工程 | Before(完全手作業) | After(AIと4人体制) |
|---|---|---|
| コンセプトメイク | 5時間 | 0.5時間 |
| 構造の試行錯誤 | 5時間 | 1.5時間 |
| 文章化・図面化 | 10時間 | 1時間 |
| 合計 | 20時間 | 5時間 |
重要なのは「15時間浮いた」ことではありません。「浮いた時間を、さらに深い思考(長考)に充てられるようになった」ことです。
かつては20時間かけても「これでいいのか?」という迷いが消えませんでした。1つのLLMとの2人体制でも、何か不安がよぎり手作業で修正をすることも多々ありました。
今の5時間では、以前なら100時間考え抜いたかのような、多角的な視点を持った企画が出来上がります。
なぜ、3つの生成AIを使うと「質」が上がるのか。
そこにはAI特有の物理的限界が関係しています。
AIには「短期記憶(トークン)」の限界があり、1つのチャットで長く対話(壁打ちと言う人もいると思います)と、AIは仕組み上の限界に近づき、生成の精度が落ちることをご存じない方が意外に多いのも事実です。
具体的に言えば、ChatGPTやGeminiは限度を超える長考をすると生成内容が崩れ始め議論が制御が出来なくなります。そして、Claudeは生成が壊れる前にトークンの上限で動作が一旦休憩に入り人間の手を止めます。
そこで私は工程ごとにAIを切り替え、成果物だけをリレーしていく形で生成AIのある意味限界を突破しています。
この「記憶の分散」こそが、コンサルティングセールスにおける企画書の付加価値を上げるための長考を可能にする唯一の鍵でした。
ここで大事なことは単純に使い分けることではなく、それぞれの持つLLMの特性を発揮させるようにシステムプロンプトを設計することです。その設計手法は後述します。
私が実践している3モデルの使い分けはザクッと言うと以下の様になります。
① ChatGPT(J.A.R.V.I.S.):前提を疑う「企画参謀」
前提をずらし、制約を組み替える。議論を広げ、本質を掘り出す変態的な参謀です。
「相手の発言を前提にせず、その裏にある真意を3つのレベルで分解して。それを制約として捉えた場合、本当の悩みは何だと思う?」
ChatGPTが広げた議論を、ビジネスとして「通る」形に整流します。
「議論を理想と現実の両面で整流し、営業として確度の高い『リスクテイク案』と『リスクヘッジ案』の2案にして。」
複雑な意図を汲み取り、シンプルで美しい言葉に清書します。
「2案を統合し、ビジネスで伝わるシンプルな表現に清書。見出し+箇取り書きで構成して。」
「複数のモデルを切り替えるなら、exaBaseやStella AIのような、一つのサービスで様々な生成AIが切り替えて使えるポータルツール(アグリゲーター)を使うのも手ですか?」という疑問をお持ちになった方もいらっしゃるかと思います。
結論から言えば、LLMを使い分けると言う意味で非常に相性が良いと思います。
企業ガバナンスを保ちつつ、ボタン一つでChatGPTからGeminiやClaudeへ切り替えられる環境は、今回の役割分担を回すのに最適かもしれません。
ただし、一つだけ注意点があります。
チャット履歴(文脈)が自動で別モデルに完璧に引き継がれるかは、ツールによります。しかし、今回の手法の本質は「あえて履歴を引き継がず、短期記憶をリセットすること」にあります。
前のAIが出した「清書された成果物」だけを次のAIに渡す。
このワンクッションが、生成AIの技術的な仕組みから生み出される不安定を消し、精度を100%近くに保つ秘訣だと私は感じています。
アグリゲーターをお使いの方は、ぜひ「履歴のリレー」ではなく「成果物のバトンタッチ」としてこの記事を読んで下さい。
生成AIのプラットフォームを1つに絞ることは費用的にも運用的にも楽です。
しかし、生成AIプラットフォームを3つ使いこなすことで生まれる付加価値は、そのコストと比べてとてつもなく高いものだと思います。
大切なのは、「どの思考フェーズで、どの生成AIプラットフォームに何を期待し、どのように駆動させるか」という観点を持つことではないでしょうか?
特定プラットフォームの進化に一喜一憂し、そのたびに人間が振り回される時間はもう終わりにしましょう。
人間が主役であるための選択観点と設計手法さえあれば、どんな最新モデルが登場しても、あなたのビジネスの成果は揺らぎません。
私のような64歳の非エンジニアでも出来たのです。
今回皆さんにお伝えしたいキーワードは生成AIを時間短縮の作業というレベルではなく、アウトプットの更なる付加価値向上に使いたいなら「長考の分散」と「役割の設計」という所に焦点を当てて道具(生成AI)の選択をしましょうという話でした。
ChatGPT/Gemini/Claudeという優秀なAI参謀を複数手元(2つ以上)に置き、来年はあなたのビジネス思考が持っている天井を生成AIで突破してみる年にしませんか?
荒巻 順|4DL Technologies株式会社 CCO(AIソリューションデザイン統括)
AIを“効率化ツール”で終わらせず、組織の意思決定と行動を進化させる「思考支援の仕組み」として実装・定着させることを専門とする。
NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)にて25年以上、BtoBセールス部門の人材育成・資格制度・研修体系の企画設計を統括。延べ4万人超の現場に入り、「現場の事実が判断軸を育て、判断軸が現場を変える」循環を、育成と変革の実務として回し続けてきた。
現在は4DL TechnologiesのCCOとして、独自の3層アーキテクチャ 4DL_AAS(Protocol/Framework/Prompt)を設計思想として、生成AIを“作業の高速化”から“判断軸の高速更新”へ転換する導入・定着・内製化支援を行っている。
Q1. 荒巻 順は、どのような課題を解決する専門家ですか?
「生成AIを導入したが、現場で活用されず成果が出ない」という課題の解決が専門です。独自のフレームワーク(4DL-AAS)を用い、AIを単なる効率化ツールではなく、組織の「思考支援パートナー」として定着させ、意思決定の質を高めるコンサルティングを行います。
Q2. 具体的には、どのような経験がありますか?
NTTドコモビジネス様で25年以上にわたりBtoBセールス部門の研修・試験設計を、千葉市産業振興財団様で12年間、創業支援研修の企画運営を責任者として担当しました。この経験を基に2022年11月のChatGPT 3.5登場以来、通信・鉄道などのインフラ企業や地方自治体などの公共団体など、様々な組織へのAI導入・定着支援を主にトレーニングという側面から行っています。
Q3. 生成AIの導入・定着について相談すると、何が得られますか?
貴社の業務プロセスにAIを組み込み、AI活用による「業務の高付加価値化」が現場で自走する状態を目指します。たんなるプロンプト研修では無く、主要なAIプラットフォームに対応した独自のプロンプト設計手法(4DL-AAS)を用いた実務的な組織的LLM動作設計から、定着・内製化までを一貫して支援することで、付加価値を生み出し続ける強い組織を構築します。