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10月 5, 2025
6 min read time

DX推進部門が悩むベテランがもつAIへの暗黙の抵抗---組織の資産である“ベテランの経験知”をCopilotに組み込むプロンプト設計

“ベテランの経験知”をCopilotに組み込む

DX推進部門が全社的なAI活用、特にCopilotのようなツールの定着を目指す中で、必ずと言っていいほど直面するリアルな壁があります。

それは、華々しいテクノロジーの導入事例や、若手社員の柔軟な適応力の話の裏で、静かに、しかし確固として存在する声──「AIより、俺の経験の方がまだ使える」と心の中で唱える、ベテラン社員たちの存在です。

みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。

makeAIworkforyou

この“経験値主義”とも言えるスタンスは、一見すると変革への抵抗勢力のように映るかもしれません。

しかし、もし私たちがその見方を180度変え、彼らを否定するのではなく、むしろ最大の味方につけることができるとしたらどうでしょうか。

本記事では、AI導入の成否を分ける最後のワンピースは、実はこのベテランたちの“ひとこと”に隠されているという事実を探ります。

彼らの経験を障害ではなく起爆剤に変え、AI定着の真のブレイクスルーをいかにして起こすか。その具体的な道筋を提示します。

 

目次


  1. DX推進部門がぶつかる「ベテランの壁」とは?
  2. “属人知”は、Copilotを“共進化”させる触媒となる
  3. 経験値を“プロンプト”に変換する技術
  4. タッグを組めば、AI活用の次元が変わる
  5. AI活用のカギは「ベテランのひとこと」に宿る

1. DX推進部門がぶつかる「ベテランの壁」とは?

Copilotの導入が進み、初期の定着フェーズに入ると、DX推進部門の耳には様々な現場の声が届き始めます。その中でも特に対応が難しいのが、長年の経験に裏打ちされた、ベテラン社員からの次のような言葉です。

「Copilotに聞くまでもないよ。そんなの使わなくても、見ればわかる」
「そのデータ分析の結果、面白いけどね。それ、10年前にも同じような話があったんだよ」
「AIが出したこの提案、一見もっともらしいけど、うちのA社っていう特殊な取引先には絶対通用しない」

これらの発言は、単なる懐古主義や変化への抵抗ではありません。

彼らにとっては、数々の修羅場をくぐり抜け、成功も失敗も肌で感じてきた経験こそが、最も信頼できる思考のOSなのです。

AIという“新参者”が提示する標準化された正解に対して、本能的な警戒心を抱き、新たなツールの学習にコストを払うことを躊躇するのは、ある意味で自然な反応と言えるでしょう。

多くのDX推進施策は、この「ベテランの壁」をいかに乗り越えるか、あるいは、いかにして彼らを説得するかに焦点を当てがちです。

しかし、もしこの壁が乗り越えるべき障害物ではなく、AI活用のポテンシャルを最大限に引き出すための“ブースター”だとしたら、私たちの戦略は根本から変わるはずです。

 

2. “属人知”は、Copilotを“共進化”させる触媒となる

 

生成AI、特にCopilotは、膨大な公開情報やドキュメントから学習し、極めて優秀な回答を生成します。

しかし、その知識には決定的に欠けているものがあります。それは、特定の組織、特定の現場でしか得られない“暗黙知”“文脈”です。

  • 長年の取引で培われた、特定の顧客の“クセ”
  • 過去の失敗プロジェクトから得られた、文書化されていない教訓
  • 業界特有の慣習や、社内の力学を踏まえた上での最適なコミュニケーション

これらこそ、ベテラン社員の頭の中に蓄積された、組織にとって最も価値のある情報資産です。AIが生成するアウトプットが、どれだけ論理的で美しくても、この文脈を欠いていれば「机上の空論」で終わってしまいます。

ここに、ベテランとAIが“最強タッグ”を組める可能性が生まれます。

ベテランの持つ経験値を、AIへの指示、すなわちプロンプトに的確に組み込むことができれば、AIのアウトプット精度は劇的に向上します。

人間の経験(文脈・暗黙知) × AIの知識(網羅性・処理速度) = 組織の最強知的資産

この方程式を成立させることができたとき、AIは単なる効率化ツールではなく、組織独自の競争優位性を生み出す戦略的なエンジンへと進化するのです。

ベテランの経験は、AIを陳腐な“優等生”から、頼れる“参謀”へと育てるための、最高の教師となり得ます。

 

3. 経験値を“プロンプト”に変換する技術

 

「ベテランの経験が重要だということはわかった。しかし、その“勘”や“肌感覚”を、どうやってAIが理解できる言葉にすればいいのか?」

これこそ、DX推進部門が次に直面する課題です。

ベテランの「まあ、この場合は例外なんだよ」という、あの短いひとことに凝縮された無数の思考プロセスを、どうすればプロンプトとして表現できるのでしょうか。

その鍵は、状況依存の再現性にあります。

つまり、「いつ」「誰が」「何を」「なぜ」そう判断したのかという、経験が発動された際の“状況”を言語化し、AIにインプットすることです。

例えば、「A社向けの提案書を作成して」という単純なプロンプトを、ベテランの知見を加えて例えば次のように進化させます。

「A社向けの提案書を作成。ただし、A社の担当部長は極めて慎重派で、過去に新規導入で失敗した経験から、リスクを過剰に懸念する傾向がある。そのため、提案内容には必ず『想定されるリスクと、それに対する具体的な対策』の項目を3つ以上盛り込み、過去の類似事例(B社、C社)の成功データも引用して、安心感を醸成するトーンで書いてほしい」

このように、経験に基づく“人物像”や“過去の経緯”といった文脈を与えるだけで、AIのアウトプットは、ただの提案書から「A社に響く提案書」へと質的に変化します。

さらに、こうした属人的な経験を組織の資産として構造化するためには、4DL-AAS(AI  Activate Suite)のようなフレームワークの設計手法が有効です。

  • Prompt層(対話設計): 業務に即した具体的な生成内容や表現方法などををCopilotに指示する
  • Alignment層(関係性設計): 企業としての方向性や戦略、事業部門の目標や方針など「ビジネス粒度が大きい抽象情報」を生成の前提や制約として組み込む
  • Protocol層(思考設計): LLMを駆動する際の思考スタンスとしての創造性や規律性を定義する

こうした三層構造を用いることで、ベテランの暗黙知を、誰もが再現可能な「思考のOS」として組織にインストールすることが可能になるのです。

4DL Technologies株式会社で開発した、大手通信事業者様向けBtoBコンサルティングセールスの戦略立案を効率化と付加価値の高度化するAIエージェントでその効果は実証されています。

また、大手鉄道事業者様のデジタル経営推進部門への全社定着むけワークショップのDifyアプリケーションにも実装されています。

 

4. タッグを組めば、AI活用の次元が変わる

 

ベテランの経験値をプロンプトに変換するプロセスは、一度きりで終わるものではありません。むしろ、このプロセス自体が、AIとベテランの関係性を劇的に変えるきっかけとなります。

DX推進部門が、ベテランの「AIの提案はここが甘い」という発言を、単なる批判として受け流すのではなく、「ありがとうございます。その視点を、次のプロンプトに反映させてください」とフィードバックを求める。

この対話が始まった瞬間、ベテランはAIの“批評家”から、AIを育てる“主席チューナー”へと役割を変えます。

  • Before: Copilotが生成した議事録を見て、「要点はそこじゃないんだよな」と内心でため息をつく。
  • After: 「この会議の最も重要な決定事項は、表面的な結論ではなく、A部長とB部長の間の“見解の相違”が残った点だ。次回から、Copilotには必ず『合意事項』と『未解決の論点』を分けて要約するように指示しよう」と、AIの“使い方”を改善する。

このように、ベテランの経験がAIに“食わされ”、そのフィードバックによってAIが進化していく。このサイクルが回り始めると、AIはもはや汎用ツールではなく、自社の文化やベテランの流儀を深く理解した、真のアシスタントへと成長していきます。

そして何より重要なのは、このプロセスを通じて、これまで言語化されることのなかったベテランの貴重な経験が、プロンプトという形で形式知化され、組織全体で共有・継承されていくことです。

現場に「経験を言語化し、AIを育てる文化」が根付くことこそ、組織全体のDX成熟度を本質的に押し上げる原動力となるのです。

そのために重要なコトは、DX推進部門が「Copilotを全社的な付加価値創造のために、ベテランの暗黙知をプロンプトで図面化(形式知の構造化)する」という方針を持つことです。

 

5. AI活用のカギは「ベテランのひとこと」に宿る

 

「AIにはまだ負けない」──。

DX推進の現場で聞こえてくるこのひとことを、私たちはもはやネガティブに捉える必要はありません。その言葉の裏には、AIがまだ到達できていない、生々しい現場の文脈と、長年かけて培われた深い知恵が凝縮されているからです。

それを無視して、トップダウンでAI活用を押し付けるだけでは、真の定着は決して訪れないでしょう。

DX推進部門が今、本当に目指すべきこと。それは、ベテランのスキルをAIに“置き換える”ことではありません。

彼らの貴重な“ひとこと”に真摯に耳を傾け、それをプロンプトという共通言語に翻訳し、AIにインストールすることで、両者の“共進化”をデザインすることです。

ベテランの経験がAIを賢くし、AIがベテランの知見を組織の力に変える。

この最強のタッグが生まれたとき、あなたの会社のAI活用は、他社が決して真似できない、本質的な競争力へと昇華するはずです。

そして、ベテランとAIの共進化は、決して遠い未来の話ではなく、今日からでも始められるのです。

Copilotを“使う”から“育てる”へ —— 経験値を活かす設計図、持っていますか?

Copilot導入後、いま求められているのは「使い方」ではなく、“誰の経験をどう活かし、AIにどう考えさせるか”という問いの設計です。

4DL Technologiesでは、CopilotやChatGPT・Geminiなどの生成AIに、ベテラン社員の経験知や思考パターンを“再現性あるプロンプト”に変換するための思考設計フレームワーク「4DL-AAS」を中核に、段階的な定着支援プログラムを提供しています。

Copilot導入の“その先”を描くために──B0から始める定着設計をDX推進部門の皆様と

Copilotの導入はゴールではなく、始まりにすぎません。真に業務変革へとつなげるには、「定着」──すなわちチームの思考の質と速度を変えるリスキリングが不可欠です。

私たち4DL Technologies株式会社では、Copilotの定着と本質的な業務変革を支援する3つのリスキリングプログラムをご用意しています。


🟣 ANT-B0:Copilotで「問いを立てる力」を育てる【入門編】

Copilotを“調べ物ツール”などの単純作業利用で終わらせず、思考をともに進める相棒として使いこなす第一歩を体感しませんか?

Copilotにどう問いかければ、欲しい情報が出てくるのか?そして、Copilotから問い返して暗黙知を深掘りしてくれる体験。

業務文脈に合わせた「問いのOS」をインストール。まずはこのB0から始めて、チーム内でのリスキリングを“スモールスタート”しませんか?


🟣 ANT-B1:複雑な業務を再現するプロンプト設計【実践編】

自社の業務にCopilotを本格活用するためのエンタープライズ企業として求めるプロンプトの設計力・再現力・構造化力を非エンジニア向けが学びます。

B0で体感した「思考支援ツールとしてのCopilot」をベースに、業務プロセスにAIを実装する力を養います


🟣 ANT-B2:AIエージェントを自社業務に組み込む【応用編】

Copilot Studioというノーコードツールを活用して、社内専用のAIエージェントを設計・導入を自走するチームにしませんか?

現場が、自分の仕事を、自分たちで設計・開発・修正の試行錯誤できる「業務をAI化する」自走できる状態を目指します。

 

📌まずは安価な体験ワークショップ”ANT-B0”から定着施策を上司と考えませんか?

 

「Copilotを“思考の相棒”に変える」という明確な効果をパイロットチームに体感してもらい上司に提案できる状態をつくりませんか?

場合によっては、あなたが稟議を上げる経営層に「AIによる思考支援の未来」を体感・実感してもらうという作戦はいかがでしょう?

そんな仕掛けにもB0は最適です。

ANT-B0

記事執筆者:

 

荒巻 順|4DL Technologies株式会社 CCO(AIソリューションデザイン統括)

NTTドコモビジネスにて、i-modeが開始される以前から25年以上にわたりBtoBセールス部門の人材育成(研修・試験)の企画設計を責任者として担当。千葉市産業振興財団で12年間、創業支援研修を責任者として担当。

専門は、独自のプロンプト設計手法(ODGC/4DL-AAS)を用い、AIを「思考支援」ソリューションへと進化させる「生成AI導入・定着コンサルティング」です。

CCO

よくある質問(FAQ)

Q1. 荒巻 順は、どのような課題を解決する専門家ですか? 

「生成AIを導入したが、現場で活用されず成果が出ない」という課題の解決が専門です。独自のフレームワーク(4DL_AAS)を用い、AIを単なる効率化ツールではなく、組織の「思考支援パートナー」として定着させ、意思決定の質を高めるコンサルティングを行います。

 

Q2. 具体的には、どのような経験がありますか? 

NTTドコモビジネス様で25年以上にわたりBtoBセールス部門の研修・試験設計を、千葉市産業振興財団様で12年間、創業支援研修の企画運営を責任者として担当しました。この経験を基に、通信・鉄道・自治体など、様々な組織へのAI導入・定着支援を主にトレーニングという側面から行っています。

 

Q3. 生成AIの導入・定着について相談すると、何が得られますか? 

貴社の業務プロセスにAIを組み込み、AI活用による「業務の高付加価値化」が現場で自走する状態を目指します。たんなるプロンプト研修では無く、主要なAIプラットフォームに対応した独自のプロンプト設計手法(4DL_AAS)を用いた実務的な組織的LLM動作設計から、定着・内製化までを一貫して支援することで、付加価値を生み出し続ける強い組織を構築します。