世界は今、かつてないほどの「便利さ」に包まれています。
Copilotに頼めば、数秒で美しいスライドが出来上がり、Geminiには膨大な議事録を一瞬で要約し、次のタスクまで割り振ってくれます。ChatGPTはGPT-5.1になって更に幅広く欲しい答えを探し出してくれます。
「AI導入で業務時間が20%削減された」「誰もがクリエイターになれる時代が来た」。そんな賛辞が飛び交う2025年の暮れ。
しかし、その熱狂の陰で、多くの経営者やDX推進リーダーが、言葉にできない「乾いた不安」を感じ始めているのではないでしょうか。
「確かに便利にはなった。楽にもなった。でも、我々は競合他社に対して、何か決定的な差をつけられているだろうか?」
ツールは行き渡りました。ノウハウもコモディティ化しました。
隣の会社も、その隣の会社も、同じAIを使い、同じようなプロンプトを入力し、同じような「平均点のアウトプット」を出しているとしたら。
それは「進化」ではなく、「均質化」への道を全速力で走っているだけかもしれません。
AI時代のDX論最終回となる第5弾では、これまでの議論(速さ・土台・深さ・価値変革)を総括しつつ、2026年に向けて4DL Technologiesが提示する、最も過激で、しかし最も本質的な提言を行います。
「AIに使われるな。AIを組み伏せろ」
便利ツールのユーザーで終わるか、AIと格闘して独自の知性を生み出す組織に変わるか。
ここが、これからの企業の生存確率を分ける最大の分岐点です。
みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。
──「How to use」が生む、コモディティ化の罠
今、世界中で量産されているものは何か。
それは、「AIに聞けば誰でも手に入る、そこそこ優秀な答え」です。私たちはそれを「AIのコモディティ」と呼びます。
多くの企業が取り組んでいる「AI活用」の実態は、このコモディティをいかに効率よく引き出すか、という競争になっています。
「どんなプロンプトなら正解が出るか」「どのツールなら早く終わるか」。
こうした「How to use(どう使うか)」の問いに終始している限り、企業の出力(アウトプット)は、AIが学習した過去のデータの「平均値」に収束していきます。
考えてみてください。
競合他社も同じLLM(大規模言語モデル)を使い、似たような「正解プロンプト」を使っているのです。出てくる戦略、企画、コピーライティングが似通ってくるのは必然です。
AIを使えば使うほど、皮肉なことに、企業としての個性や独自性は削ぎ落とされ、市場全体がのっぺりとした「均質化」の海に沈んでいく。これが、私たちが恐れる「How to use」の罠です。
この流れに抗う唯一の方法。それが「AIを組み伏せる」ことです。
AIが出してきた平均点の答えを、そのまま採用しない。自社の哲学、美学、あるいは泥臭い現場の事実(Fact)をぶつけ、ねじ曲げ、選び直す。
「How to think with(AIと一緒にどう考えるか)」へとスタンスを変えたとき初めて、AIはコモディティを生む機械から、差別化を生むエンジンへと変わります。
AIを使えば使うほど、他社と似ていく会社になるか。
AIを使えば使うほど、他社が真似できない独自性を研ぎ澄ます会社になるか。
その分岐点は、AIを「便利な下僕」として扱うか、「歯ごたえのあるビジネス参謀」として組み伏せるかにかかっています。
── AIに従う人/AIと喧嘩できる人
現状、世の中のAI教育や研修の9割は「How to use」に集中しています。
「このボタンを押せば要約できます」「このプロンプトをコピペすればスライドが作れます」。
もちろん、入り口としては必要です。しかし、そこで止まってしまえば、社員は「AIのオペレーター」にしかなりません。
私たちが2026年に向けて提唱するのは、「How to think with AI(AIと一緒にどう考えるか)」へのシフトです。
この2つは、根本的に何が違うのでしょうか。
【How to use(AIに従う人)】
【How to think with(AIと喧嘩できる人)】
ビジネスにおける「AIを組み伏せる」とは、腕力のことではありません。
AIが提示する「もっともらしい平均解」に対して、人間側の意志で「No」を突きつけ、そこからのズレを意図的に作り出す行為のことです。
この「ズレ」こそが、これからの時代のビジネスにおける付加価値の源泉になります。
── 知性は“摩擦熱”からしか生まれない
これまでのDXプロジェクトの多くは、「摩擦ゼロ(Frictionless)」を目指してきました。
手間をゼロにする。クリック数を減らす。思考の分断をなくす。
それは業務効率化としては正解でしたが、同時に私たちは、組織から「考えるための摩擦」までも削ぎ落としてしまったのかもしれません。
たとえば、こんな会議です。
AIが自動生成した議事録とタスク一覧がスクリーンに映され、「では、このタスクでお願いします」と議長が締めようとしたとき、誰も「本当にこれが優先順位なのか?」と問い直さない会議。
一見スマートですが、そこには知性が生まれるための摩擦がありません。
摩擦がなければ熱は生まれず、熱がなければ金属は変形しません。同じように、知性もまた、脳に負荷がかかる「摩擦熱」からしか生まれないのです。
私たち4DLが提供したいのは、あえて組織に「良い摩擦(知的フリクション)」を設計して戻すことです。
便利ツールは「摩擦ゼロ」を目指します。
しかし、4DLは「知性が生まれるだけの摩擦」を、あえて業務プロセスの中に残しにいきます。
「面倒くさい」と思うかもしれません。しかし、その面倒な摩擦の中にしか、競合が模倣できない「御社だけの強み」は宿らないのです。
── 4DL-AASが定義する“思考OS”の中身
本連載では繰り返し「組織のOS」という言葉を使ってきました。これを、AI時代の文脈でより具体的に再定義しましょう。
組織OS(思考OS)とは、「AIのアウトプットに対して、何にOKを出し、何にNGを出すかという“検閲基準(ダメ出し力)”」のことです。
AIが出してきた事業計画書に対して、「よくできている」と通してしまうのか。
それとも、「データは正確だが、顧客の痛みの解像度が浅い」と突き返すのか。
この検閲基準こそが、「AIが出してきた“もっともらしい平均解”を、そのまま通すのか、それとも突き返すのか」を決める、組織の知性の核心です。
私たちが提唱するアーキテクチャ『4DL-AAS』は、この「検閲基準」を三層構造で設計・実装するためのフレームワークです。
一言で言えば、「AIに何を考えさせ、どこで止めるか」を設計するための“思考制御OS”です。
OSを鍛えるとは、抽象的な精神論ではありません。
「AIへのダメ出しの基準」を言語化し、それを組織全体で共有可能なプロトコル(手順)として実装することです。
これがない組織は、AIの平均点に甘んじ、やがてAIに使われる側に回ることになります。
── 便利な使い方ではなく、“How to think with”の訓練場
「ダメ出し力」や「検閲基準」は、座学では身につきません。実際にAIと対峙し、汗をかく経験が必要です。
私たちが提供する非エンジニアをAi時代の主役に引き上げるAIトレーニングサービス《ANTシリーズ》は、まさにこの「AIとの喧嘩・摩擦」を体験するための道場です。
世の中の多くのAI研修が「ツールの便利な使い方」を教える教室だとしたら、ANTは「AIへのダメ出し筋トレ」を行うジムです。
4DLは、「思考の外注」を推奨しません。
AIとの摩擦からしか生まれない知性を、組織の筋肉としてインストールする会社です。
── 便利ツールへの投資か、思考OSへの投資か
2026年、多くの企業が同じような高性能AIツールを導入し終えるでしょう。
そのとき、企業の競争力は何で決まるでしょうか。
ツールの性能差ではありません。
「どんなOS(基準)でAIを扱い、どんな摩擦を設計して、独自の答えを導き出せるか」。
この一点に尽きます。
来期の予算とリソースを、どこに振りますか?
「How to use研修(ツールの操作説明)」に振り続けますか?
それとも、
「How to think with研修(AIと喧嘩できる人材の育成)」にシフトしますか?
前者は、現場を素早く短期的には楽にするでしょう。
後者は、導入時は現場に負荷(摩擦)をかけるかもしれません。
しかし、そこで培った自分たちの試行錯誤から生まれる自分たちの「思考のOS」は、ツールが変わっても、AIが進化しても、決して古びない組織の資産になります。
AIを組み伏せるという表現を変えます。
「AIの平均値から脱出するための知的摩擦」に、意図的に投資するという経営判断をできる企業がAI時代のDXを本気で考えていることになるのではないかということを、4DL Technologies株式会社はお伝えしたく少々乱暴な言い回しをしました。
── 次にAIに向かうとき、あなたは何を頼みますか?
「AI時代のDX論」では、5回にわたりAI時代のDXの本質を論じてきました。
これらを貫く背骨は一つです。
DXとは、テクノロジーを使って人間をサボらせることではない。テクノロジーという最強の他者と向き合い、人間の知性を極限まで研ぎ澄ますことである。
2025年の締めくくりとして、最後に一つだけ問いを置きます。
次にAIを開いたとき、あなたは何を頼みますか?
「スライドを作って」「議事録をまとめて」──これまでの「How to use」の延長ですか?
それとも、
関連情報・お問い合わせ
荒巻 順|4DL Technologies株式会社 CCO(AIソリューションデザイン統括)
AIを“効率化ツール”で終わらせず、組織の意思決定と行動を進化させる「思考支援の仕組み」として実装・定着させることを専門とする。
NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)にて25年以上、BtoBセールス部門の人材育成・資格制度・研修体系の企画設計を統括。延べ4万人超の現場に入り、「現場の事実が判断軸を育て、判断軸が現場を変える」循環を、育成と変革の実務として回し続けてきた。
現在は4DL TechnologiesのCCOとして、独自の3層アーキテクチャ 4DL_AAS(Protocol/Framework/Prompt)を設計思想として、生成AIを“作業の高速化”から“判断軸の高速更新”へ転換する導入・定着・内製化支援を行っている。
Q1. 荒巻 順は、どのような課題を解決する専門家ですか?
「生成AIを導入したが、現場で活用されず成果が出ない」という課題の解決が専門です。独自のフレームワーク(4DL-AAS)を用い、AIを単なる効率化ツールではなく、組織の「思考支援パートナー」として定着させ、意思決定の質を高めるコンサルティングを行います。
Q2. 具体的には、どのような経験がありますか?
NTTドコモビジネス様で25年以上にわたりBtoBセールス部門の研修・試験設計を、千葉市産業振興財団様で12年間、創業支援研修の企画運営を責任者として担当しました。この経験を基に2022年11月のChatGPT 3.5登場以来、通信・鉄道などのインフラ企業や地方自治体などの公共団体など、様々な組織へのAI導入・定着支援を主にトレーニングという側面から行っています。
Q3. 生成AIの導入・定着について相談すると、何が得られますか?
貴社の業務プロセスにAIを組み込み、AI活用による「業務の高付加価値化」が現場で自走する状態を目指します。たんなるプロンプト研修では無く、主要なAIプラットフォームに対応した独自のプロンプト設計手法(4DL-AAS)を用いた実務的な組織的LLM動作設計から、定着・内製化までを一貫して支援することで、付加価値を生み出し続ける強い組織を構築します。