Skip to content
12月 26, 2025
10 min read time

AIを組み伏せる気概なき企業は、均質化する ──「How to use」から「How to think with」へ。知的摩擦としてのDX再定義 ---AI時代のDX論⑤

「How to use」 から 「How to think with」へAI時代のDX論⑤

「How to use」から「How to think with」へ

世界は今、かつてないほどの「便利さ」に包まれています。

Copilotに頼めば、数秒で美しいスライドが出来上がり、Geminiには膨大な議事録を一瞬で要約し、次のタスクまで割り振ってくれます。ChatGPTはGPT-5.1になって更に幅広く欲しい答えを探し出してくれます。

「AI導入で業務時間が20%削減された」「誰もがクリエイターになれる時代が来た」。そんな賛辞が飛び交う2025年の暮れ。

しかし、その熱狂の陰で、多くの経営者やDX推進リーダーが、言葉にできない「乾いた不安」を感じ始めているのではないでしょうか。

「確かに便利にはなった。楽にもなった。でも、我々は競合他社に対して、何か決定的な差をつけられているだろうか?

ツールは行き渡りました。ノウハウもコモディティ化しました。

隣の会社も、その隣の会社も、同じAIを使い、同じようなプロンプトを入力し、同じような「平均点のアウトプット」を出しているとしたら。

それは「進化」ではなく、「均質化」への道を全速力で走っているだけかもしれません。

AI時代のDX論最終回となる第5弾では、これまでの議論(速さ・土台・深さ・価値変革)を総括しつつ、2026年に向けて4DL Technologiesが提示する、最も過激で、しかし最も本質的な提言を行います。

「AIに使われるな。AIを組み伏せろ」

便利ツールのユーザーで終わるか、AIと格闘して独自の知性を生み出す組織に変わるか。

ここが、これからの企業の生存確率を分ける最大の分岐点です。

みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。

makeAIworkforyou

1. AIを組み伏せる気概のない企業から、AIに均質化されていく

 

──「How to use」が生む、コモディティ化の罠

今、世界中で量産されているものは何か。

それは、「AIに聞けば誰でも手に入る、そこそこ優秀な答え」です。私たちはそれを「AIのコモディティ」と呼びます。

多くの企業が取り組んでいる「AI活用」の実態は、このコモディティをいかに効率よく引き出すか、という競争になっています。

「どんなプロンプトなら正解が出るか」「どのツールなら早く終わるか」。

こうした「How to use(どう使うか)」の問いに終始している限り、企業の出力(アウトプット)は、AIが学習した過去のデータの「平均値」に収束していきます。

考えてみてください。

競合他社も同じLLM(大規模言語モデル)を使い、似たような「正解プロンプト」を使っているのです。出てくる戦略、企画、コピーライティングが似通ってくるのは必然です。

AIを使えば使うほど、皮肉なことに、企業としての個性や独自性は削ぎ落とされ、市場全体がのっぺりとした「均質化」の海に沈んでいく。これが、私たちが恐れる「How to use」の罠です。

この流れに抗う唯一の方法。それが「AIを組み伏せる」ことです。

AIが出してきた平均点の答えを、そのまま採用しない。自社の哲学、美学、あるいは泥臭い現場の事実(Fact)をぶつけ、ねじ曲げ、選び直す。

「How to think with(AIと一緒にどう考えるか)」へとスタンスを変えたとき初めて、AIはコモディティを生む機械から、差別化を生むエンジンへと変わります。

AIを使えば使うほど、他社と似ていく会社になるか。

AIを使えば使うほど、他社が真似できない独自性を研ぎ澄ます会社になるか。

その分岐点は、AIを「便利な下僕」として扱うか、「歯ごたえのあるビジネス参謀」として組み伏せるかにかかっています。

 

2. 「How to use」か「How to think with」か

 

── AIに従う人/AIと喧嘩できる人

現状、世の中のAI教育や研修の9割は「How to use」に集中しています。

「このボタンを押せば要約できます」「このプロンプトをコピペすればスライドが作れます」。

もちろん、入り口としては必要です。しかし、そこで止まってしまえば、社員は「AIのオペレーター」にしかなりません。

私たちが2026年に向けて提唱するのは、「How to think with AI(AIと一緒にどう考えるか)」へのシフトです。

この2つは、根本的に何が違うのでしょうか。

 

【How to use(AIに従う人)】

  • 前提:AIが「正解」を持っている。自分はそれを受け取る側。
  • プロンプト:機能を呼び出すための「呪文」。
  • 態度:出てきたアウトプットを「そのまま採用」しがち。「AIがこう言ったから」と思考停止する。
  • 結果:思考の“縮小”。

 

【How to think with(AIと喧嘩できる人)】

  • 前提:正解は自分が作る。AIはそれを叩くための「素材」や「サンドバッグ」。
  • プロンプト:摩擦を生むための「問い」。「俺の前提を疑え」「違う視点の仮説を出せ」。
  • 態度:出てきたアウトプットに「ダメ出し」をする。「浅い」「文脈が違う」と突き返し、再考させる。
  • 結果:思考の“拡張”と“独自化”。

ビジネスにおける「AIを組み伏せる」とは、腕力のことではありません。

AIが提示する「もっともらしい平均解」に対して、人間側の意志で「No」を突きつけ、そこからのズレを意図的に作り出す行為のことです。

この「ズレ」こそが、これからの時代のビジネスにおける付加価値の源泉になります。

 

3. DXから“摩擦”が消えた会社は、なぜ弱くなるのか

 

── 知性は“摩擦熱”からしか生まれない

これまでのDXプロジェクトの多くは、「摩擦ゼロ(Frictionless)」を目指してきました。

手間をゼロにする。クリック数を減らす。思考の分断をなくす。

それは業務効率化としては正解でしたが、同時に私たちは、組織から「考えるための摩擦」までも削ぎ落としてしまったのかもしれません。

たとえば、こんな会議です。

AIが自動生成した議事録とタスク一覧がスクリーンに映され、「では、このタスクでお願いします」と議長が締めようとしたとき、誰も「本当にこれが優先順位なのか?」と問い直さない会議。

一見スマートですが、そこには知性が生まれるための摩擦がありません。

摩擦がなければ熱は生まれず、熱がなければ金属は変形しません。同じように、知性もまた、脳に負荷がかかる「摩擦熱」からしか生まれないのです。

私たち4DLが提供したいのは、あえて組織に「良い摩擦(知的フリクション)」を設計して戻すことです。

  1. AIへのツッコミ摩擦
    AIの回答を鵜呑みにせず、「その前提は古い」「競合視点が抜けている」と異議を申し立てるプロセス。

  2. 人間同士の認識摩擦
    第3弾で触れた「Fact・Meaning・Premise」のズレを、AIを介して可視化し、安易な合意ではなく深い対話を促すプロセス。

  3. 時間の摩擦
    即レス・即完結を良しとせず、AIとの対話を一晩寝かせて熟成させるプロセス。

便利ツールは「摩擦ゼロ」を目指します。

しかし、4DLは「知性が生まれるだけの摩擦」を、あえて業務プロセスの中に残しにいきます。

「面倒くさい」と思うかもしれません。しかし、その面倒な摩擦の中にしか、競合が模倣できない「御社だけの強み」は宿らないのです。

 

4. OSとは「AIへの検閲基準(ダメ出し力)」である

 

── 4DL-AASが定義する“思考OS”の中身

本連載では繰り返し「組織のOS」という言葉を使ってきました。これを、AI時代の文脈でより具体的に再定義しましょう。

組織OS(思考OS)とは、「AIのアウトプットに対して、何にOKを出し、何にNGを出すかという“検閲基準(ダメ出し力)”」のことです。

AIが出してきた事業計画書に対して、「よくできている」と通してしまうのか。

それとも、「データは正確だが、顧客の痛みの解像度が浅い」と突き返すのか。

この検閲基準こそが、「AIが出してきた“もっともらしい平均解”を、そのまま通すのか、それとも突き返すのか」を決める、組織の知性の核心です。

私たちが提唱するアーキテクチャ『4DL-AAS』は、この「検閲基準」を三層構造で設計・実装するためのフレームワークです。

一言で言えば、「AIに何を考えさせ、どこで止めるか」を設計するための“思考制御OS”です。

  • Protocol Layer(価値観の層)
    わが社は何を「良し」とするか。何を「リスク」とみなすか。AIに守らせるべき憲法。
  • Framework Layer(思考の型の層)
    Fact/Meaning/Premiseや、問いのOS。AIに考えさせるための構造。
  • Prompt Layer(指示の層)
    実際にAIに投げる言葉。ただし、答えをもらうためではなく、摩擦を生むための問い。

OSを鍛えるとは、抽象的な精神論ではありません。

「AIへのダメ出しの基準」を言語化し、それを組織全体で共有可能なプロトコル(手順)として実装することです。

これがない組織は、AIの平均点に甘んじ、やがてAIに使われる側に回ることになります。

 

5. ANTシリーズは「AIへのダメ出し筋トレ」である

 

── 便利な使い方ではなく、“How to think with”の訓練場

「ダメ出し力」や「検閲基準」は、座学では身につきません。実際にAIと対峙し、汗をかく経験が必要です。

私たちが提供する非エンジニアをAi時代の主役に引き上げるAIトレーニングサービス《ANTシリーズ》は、まさにこの「AIとの喧嘩・摩擦」を体験するための道場です。

  • ANT-B0(思考の拡張体験)
    「とりあえず触ってみましょう」レベルから卒業し、“AIに問い直される体験”をしてもらう。まずはAIに言わせてみて、そこから「問い直し」「前提ズラし」を行い、自分の思考がAIによって揺さぶられる感覚を掴む。

  • ANT-B1(思考構造の図面化)
    「とりあえず使えます」状態から、“どの問いならDXに効くのか”を構造で理解してもらう。【4DL-AAS】の3階層5要素フレームワークを使い、ビジネス課題の「どこを叩くとAIが一番良い反応(摩擦)を返すか」の設計思想を学ぶ。

  • ANT-B2(思考sの自走開発)
    自社専用の「AIへのダメ出し基準」を作り、ローコードツールで「問いのOS」の実装された環境を次の人材に継承できる状態にする。自社の実際の業務(商談、企画、評価など)を題材に、非エンジニアに自分の付加価値を生み出す環境を試行錯誤しながら構築する。

世の中の多くのAI研修が「ツールの便利な使い方」を教える教室だとしたら、ANTは「AIへのダメ出し筋トレ」を行うジムです。

4DLは、「思考の外注」を推奨しません。

AIとの摩擦からしか生まれない知性を、組織の筋肉としてインストールする会社です。

 

6. 2026年、エンタープライズの生存戦略としての「AIと喧嘩できる組織」

 

── 便利ツールへの投資か、思考OSへの投資か

2026年、多くの企業が同じような高性能AIツールを導入し終えるでしょう。

そのとき、企業の競争力は何で決まるでしょうか。

ツールの性能差ではありません。

「どんなOS(基準)でAIを扱い、どんな摩擦を設計して、独自の答えを導き出せるか」

この一点に尽きます。

DX推進や経営企画の皆様へ、問いかけます。

来期の予算とリソースを、どこに振りますか?

「How to use研修(ツールの操作説明)」に振り続けますか?

それとも、

「How to think with研修(AIと喧嘩できる人材の育成)」にシフトしますか?

前者は、現場を素早く短期的には楽にするでしょう。

後者は、導入時は現場に負荷(摩擦)をかけるかもしれません。

しかし、そこで培った自分たちの試行錯誤から生まれる自分たちの「思考のOS」は、ツールが変わっても、AIが進化しても、決して古びない組織の資産になります。

AIを組み伏せるという表現を変えます。

「AIの平均値から脱出するための知的摩擦」に、意図的に投資するという経営判断をできる企業がAI時代のDXを本気で考えていることになるのではないかということを、4DL Technologies株式会社はお伝えしたく少々乱暴な言い回しをしました。

 

7. エピローグ:2025年ラストメッセージ

 

── 次にAIに向かうとき、あなたは何を頼みますか?

「AI時代のDX論」では、5回にわたりAI時代のDXの本質を論じてきました。

  1. 速さ:古い判断を高速化するな。
  2. 土台:組織のOSバグを直せ。
  3. 深さ:情報量ではなく、前提の揺れから洞察を作れ。
  4. 価値:時短ではなく、価値検証のサイクルを回せ。
  5. 意志:AIに使われるな。AIを組み伏せろ。

これらを貫く背骨は一つです。

DXとは、テクノロジーを使って人間をサボらせることではない。テクノロジーという最強の他者と向き合い、人間の知性を極限まで研ぎ澄ますことである。

2025年の締めくくりとして、最後に一つだけ問いを置きます。

次にAIを開いたとき、あなたは何を頼みますか?

「スライドを作って」「議事録をまとめて」──これまでの「How to use」の延長ですか?

それとも、

「この前提は本当に正しいのか? 批判的に検証してくれ」
「AIの平均値から外れる、クレイジーな案を一緒に考えてくれ」

そんな、知的擦を生みだすための「How to think with」にシフトチェンジしますか?

 
4DL Technologiesは、AIに従う人ではなく、AIと(例えば)喧嘩しながら“自分たちの答え”を生み出せる組織を増やすことを、2026年の使命とします。
 
ビジネスとして生成AIの「便利さ」の先にある、付加価値の本質的な創造を始めたいなとこの記事で感じたら、ぜひ4DL Technologies株式会社にご連絡をください。
 
スクリーンショット 2025-07-13 110040
 

関連情報・お問い合わせ

記事執筆者

荒巻 順|4DL Technologies株式会社 CCO(AIソリューションデザイン統括)

CCO

AIを“効率化ツール”で終わらせず、組織の意思決定と行動を進化させる「思考支援の仕組み」として実装・定着させることを専門とする。

NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)にて25年以上、BtoBセールス部門の人材育成・資格制度・研修体系の企画設計を統括。延べ4万人超の現場に入り、「現場の事実が判断軸を育て、判断軸が現場を変える」循環を、育成と変革の実務として回し続けてきた。

現在は4DL TechnologiesのCCOとして、独自の3層アーキテクチャ 4DL_AAS(Protocol/Framework/Prompt)を設計思想として、生成AIを“作業の高速化”から“判断軸の高速更新”へ転換する導入・定着・内製化支援を行っている。

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 荒巻 順は、どのような課題を解決する専門家ですか?

「生成AIを導入したが、現場で活用されず成果が出ない」という課題の解決が専門です。独自のフレームワーク(4DL-AAS)を用い、AIを単なる効率化ツールではなく、組織の「思考支援パートナー」として定着させ、意思決定の質を高めるコンサルティングを行います。

 

Q2. 具体的には、どのような経験がありますか?

NTTドコモビジネス様で25年以上にわたりBtoBセールス部門の研修・試験設計を、千葉市産業振興財団様で12年間、創業支援研修の企画運営を責任者として担当しました。この経験を基に2022年11月のChatGPT 3.5登場以来、通信・鉄道などのインフラ企業や地方自治体などの公共団体など、様々な組織へのAI導入・定着支援を主にトレーニングという側面から行っています。

 

Q3. 生成AIの導入・定着について相談すると、何が得られますか?

貴社の業務プロセスにAIを組み込み、AI活用による「業務の高付加価値化」が現場で自走する状態を目指します。たんなるプロンプト研修では無く、主要なAIプラットフォームに対応した独自のプロンプト設計手法(4DL-AAS)を用いた実務的な組織的LLM動作設計から、定着・内製化までを一貫して支援することで、付加価値を生み出し続ける強い組織を構築します。