はじめに――デスクでため息をつく、金曜の午後
「またか…」法人営業マネージャーの佐藤は、部下から提出された提案書を前に、こめかみを押さえた。『MS365 Copilot導入による業務効率化のご提案』。タイトルは立派だが、中身は「便利になります」「DXが加速します」というフワフワした言葉のオンパレード。
みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社のCCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。
(これじゃ、お客様は絶対に首を縦に振らない…)
「このツールの費用対効果は?」と突こまれた時、部下はきっと「えーっと…」と口ごもるだろう。
そして「AIを導入した多くの企業様の業務改善進んでいます」という論点ずらしに逃げ込む。その光景が目に浮かぶようだ。
もう、そんな営業はやめにしないか。
顧客の心を動かすのは、雄弁なセールストークや心理テクではない。“検証可能な物語”、つまり、誰が見ても納得できる費用対効果(ROI)の台本だ。
本稿では、Copilotを相棒に、ExcelからTeamsまでを横断して、“誰がやっても”同じ品質で説得力のある「費用対効果スクリプト」を自動生成する「型」を解説する。
これは、属人化を断ち切り、価格競争から抜け出し、そして何より、マネージャーのため息をなくすための物語だ。
目次
- 「地図を描け」と言われても…だから、“設計図の作り方”を渡す - Copilotに魂を入れる「ODGCの型」とは
- Excelで“揺るがない根拠”を作る - 「その数字、どうやって出したの?」にもう怯えない
- PowerPointで“交渉の土俵”を作る - いきなり価格の話をしない勇気
- Wordで“最強のカーナビ”を渡し、Outlook/Teamsでチームを加速させる - レビューは「前提の妥当性」を見るだけになる
- まとめ――俺たちが売るべきは、価格ではなく“設計”だった - 現場で回す「15-30-10のリズム」
1. 「地図を描け」と言われても…だから、“設計図の作り方”を渡す
「もっと考えて提案しろ!」と若手に檄を飛ばしても、彼らはコンパスも地図も持っていない。
だから、コピペとどこかで聞いたようなきれい事に頼る。
佐藤は、彼らに渡すべきは叱咤激励ではなく、「営業の“設計図”」だと気づいた。それが、Copilotに指示を出すための「ODGCの型」だ。
- O|Outline(目的の宣言): 「これから『顧客説明用の費用対効果スクリプト』を作るぞ」とCopilotに目的を宣言する。評価軸は「時間・品質・コスト」の3つだけだ。これで議論がブレない。
- D|Detail(材料の指定): スクリプトの材料となるExcelのデータ項目や計算式を細かく指定する。「この数字とこの式を使ってくれ」と。曖昧さをなくし、根拠を固める工程だ。
- G|Generate(出力の指示): Excelなら表、PowerPointならスライド、Wordなら台本と、アプリごとに「こういう形でアウトプットしてくれ」と完成形を具体的に指示する。
- C|Check(検算の命令): 「数字は合ってるか?」「元データはどこだ?」とCopilotに自己チェックさせる。参照元(シート名/セル番地)の脚注まで付けさせるのがプロの仕事だ。
この「型」さえあれば、経験の浅いメンバーでも、ベテランと同じ思考プロセスで提案を組み立てられる。佐藤の仕事は、部下が作った設計図の前提と結論をチェックするだけになる。
2. Excelで“揺るがない根拠”を作る。「その数字、どうやって出したの?」にもう怯えない
「この削減効果、月間200時間って書いてるけど、根拠は?」
顧客との商談で、最も心臓が冷える瞬間だ。ここで部下がしどろもどろになれば、提案の信頼性はゼロになる。そんな悪夢を断ち切るのが、このExcelの工程だ。
まず、Copilotに「この列定義で表を作ってくれ」と頼むだけで、ROIモデルの心臓部が出来上がる。
【標準列(テンプレ)】
Task|BaselineMin|MonthlyFreq|HourlyCost|AutoRate|AdoptRate|ErrorCost|ErrorReduce|ToolCost|InitCost
重要なのは、AutoRate
(ツールの自動化率)とAdoptRate
(社員の利用率)を分けること。「ツールを入れても全員がすぐ使うわけじゃないですよね」という現実的な視点が、顧客の共感を生む。
次に、この呪文をCopilotに唱える。
【そのまま使えるCopilot指示(Excel)】
「この表の列を用いて、TimeSavedH(削減時間), QualityGainYen(品質向上益), EffectYen(総効果額), NetBenefitMonthly(月次純便益)の4列を計算して追加。さらに、採用率が±20%、自動化率が±15%変動した場合の感度表と縦棒グラフを作成。最後に総計行を追加して。」
これで、どんな変化球の質問にも揺るがない“数字の芯”が固まる。「採用率が想定より20%低かったとしても、これだけの効果が見込めます」と、リスクまで織り込んだ誠実な提案が可能になるのだ。
3. PowerPointで“交渉の土俵”を作る。いきなり価格の話をしない勇気
「で、おいくらなの?」
営業がこの言葉を言われた瞬間、主導権は顧客に移る。
気づけば「あと一声」の泥仕合…。佐藤は、この負けパターンを嫌というほど見てきた。敗因は、判断の「軸」を合意する前に、数字(価格)を見せてしまうことにある。
だから、Copilotにこう指示を出す。
【Copilot指示(PowerPoint)】
「Excelの集計結果から3枚のスライドを作成して。1枚目は『評価軸の提示』。時間、品質、コストの3点で判断しませんか?と。2枚目は『シナリオ比較』。基本プランと、強気・弱気の3パターンを見せる。3枚目は『我々からの推奨プラン』。なぜこれが最適なのか、根拠と共に示す。全スライドの数値には、Excelの参照元を脚注で入れて。」
この3枚を最初に見せる。これだけで、商談の空気が変わる。「価格」という一点突破の交渉から、「どの未来を選びますか?」という建設的な対話へと変わるのだ。
チームの誰もがこの3枚から提案を始めれば、営業品質は標準化される。佐藤がレビューで確認するのも、この3枚に集約できる。
4. Wordで“最強のカーナビ”を渡し、Outlook/Teamsでチームを加速させる
提案の途中で、自分が何を話しているか分からなくなる。そんな経験はないだろうか。佐藤は、言葉に詰まる部下を救うために、説明の順番まで固定した「台本」をCopilotに作らせることにした。
【Copilot指示(Word:費用対効果スクリプト生成)】
「ExcelとPowerPointを読み込んで、顧客説明用の台本を作成。構成は『背景→前提→試算→感度→リスク→次の一手』の順番で。誇張は一切禁止。すべての数字に参照元を脚注でつけて。」
これは、目的地(=成約)までの最適なルートを示す“カーナビ”だ。これさえあれば、新人でも道に迷わず、自信を持って話せる。
さらに、この流れをチームプレーとして加速させる。
- Outlook: 商談前には「今回はこの『軸』で判断しませんか?」という事前合意メールをCopilotに書かせる。いきなりボールを投げるのではなく、丁寧なキャッチボールから始める。
- Teams: 会議が終われば即、Copilotに「合意事項・未合意事項・宿題(誰がいつまで)」を要約させ、チャンネルに投稿させる。熱量が冷めないうちに、次の一手につなげる。
ここまで仕組み化すれば、佐藤がレビューで見るのは「そもそも、この前提は妥当か?」という一点だけになる。部下からの「レビューお願いします」の通知に、ため息をつくのではなく、コーヒーを淹れる余裕が生まれるはずだ。
5. まとめ――俺たちが売るべきは、価格ではなく“設計”だった
心理テクや気合で乗り切る営業は、もう限界だ。
数式と感度分析、そしてリスク開示まで含んだ誠実な物語こそが、今の経営層に刺さる。
佐藤は気づいた。俺たちが顧客に提供すべきだったのは、製品の価格ではない。顧客の成功を「設計」し、その未来を共に見ることだったのだと。
このプロセスを、現場では「15-30-10のリズム」で回せる。
- 15分: Excelで数値を固め、PowerPointの3枚組をCopilotに自動生成させる。
- 30分: その3枚を元に、顧客と「判断軸」を合意し、感度の当たりをつける。
- 10分: Wordの台本を更新し、Outlookで次のアクションを記載した議事録を送る。
Copilotが全社で使えるようになった。しかし、法人営業の現場でどう使えばいいのか同じ悩みを持つ全国のNTTドコモビジネス法人代理店マネージャーの皆さん。
今日の商談から、まずは“評価軸先出しの3枚”だけでも試してみてほしい。数字の見せ方を変えるだけで、顧客の表情が、そしてチームの未来が、きっと変わるはずだ。
さて、いかがだったでしょうか?
法人営業のマネージャーなら「費用対効果、簡単に計算できて、お客様にサクッと誰もが伝えられる様になれば・・・」って思いますよね?
今回のプロンプト例はあくまでも1例ですが、4DL Technologies株式会社のANCではNTTドコモビジネスの営業部門で使える生成AI戦略ツール《ANC》でお望みの形で費用対効果を自動で計算してくれるSolutionを提供しています。(もちろん、計算をするために必要なお客様の数値データのヒアリング項目も合わせです)
現在、ChatGPTで動作している《ANC》をMS365 Copilotへの移植も進めています。
ご興味をお持ちの代理店企業様からのご連絡をお待ちしています。