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9月 15, 2026
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「人が足りない」を、そのまま問題にしてはいけない|部下の報告をどう分解するか《ANT-B0マネージャー編②》

「人が足りない」を、そのまま問題にしてはいけない

 

みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。

今回は現場の要である課長(マネージャー)に焦点を当てた、AIを課長ならではの使い方について5つの記事を書きました。

課長とスタッフが、同じCopilotの使い方、例えばメールの作成、書類の成形、ちょっと複雑なExcelの作成でいいのですか?という問いを4DL Technologies株式会社から皆さんに投げかけます。

 

「2名増員してください」と言われたら

火曜の夕方、主査が課長の席に来ました。

「案件が増えています。このままでは回りません。2名増員してください」

数字を見ると、確かに案件数は増えています。重点顧客の価格改定、新規の大型引き合い、既存案件のフォローも重なっている。メンバーの残業も増え始めています。

課長としては、早く判断したいところです。

「本当に2名必要なのか」「採用予算は出るのか」「1名では足りないのか」。

しかし、この問いを始めた瞬間、すでに一つの枠の中に入っています。

「人が足りない」という問題に対して、「何人増やすか」を検討する枠です。

そもそも、問題は本当に「人が足りないこと」なのでしょうか。

02_人が足りないを分解する

 

1. 「人が足りない」は、事実とは限らない

「案件数が前年比30%増えた」は事実です。

「残業時間が増えている」も、数字で確認できれば事実です。

一方で、「人が足りない」は、その事実を見た人の解釈です。

そして「2名増員が必要」は、すでに解決手段の提案です。

この三つを一続きに受け取ると、課長の仕事は「2名を承認するか、しないか」になってしまいます。

意思決定研究では、同じ問題でも、どのような枠で提示されるかによって判断が変わり得ることが古くから指摘されています。TverskyとKahnemanの研究は、意思決定が問題の提示のされ方、つまりフレーミングの影響を受けることを示しました。

部下が意図的に課長を誘導しているという話ではありません。現場にいる人ほど、自分が見えている問題と、自分が考えた解決策をセットで報告するのは自然です。

だからこそ課長には、提示された問題設定を一度ほどく仕事があります。

 

2. チームで起きている現象を5つに分けてみる

ここで考えたいのは、難しい理論ではありません。

チームで起きている現象をいったん分けて、何と何がつながっているのか、何を先に考えるべきなのかをシンプルに見えるようにすることです。

「案件が増えた。人が足りない。だから2名増員する」という一続きの話を、そのまま受け取らず、一度ばらしてみる。

ここでは、分類すること自体が目的ではありません。個別の言葉から一段だけ抽象度を上げて、「結局、何を確保したいのか」「何が原因で、何が手段なのか」を見直すためです。

先ほどの報告を、次の5つに分けてみます。

  • 事実:案件数が増えている。残業時間が増えている。
  • 前提条件:今後も同じペースで案件が増える。現在の仕事の進め方は変わらない。1人あたりの生産性も変わらない。
  • 制約条件:納期は動かせない。品質は落とせない。採用には予算と手続きが必要。
  • 必要条件:必要な処理能力を確保する。顧客対応の遅延を起こさない。品質を維持する。
  • 手段:2名増員する。業務を自動化する。外注する。案件の優先順位を変える。役割分担を見直す。

こうして並べると、「2名増員してください」という一文の見え方が変わりませんか。

課長が検討すべきことは、2名という数字の妥当性だけではありません。

何が事実で、何を前提にし、何を動かせないと思い、何を必ず守るべきで、そのためにどの手段を選ぶのか。

ここまで分かれて、ようやく判断の入り口に立てます。

 

3. 「2名増員」は、最低限必要なものではなく手段かもしれない

ここは実務で混ざりやすいところです。

「2名の増員が必要です」という日本語には「必要」という言葉が入っています。しかし、それだけで目的達成に最低限欠かせないものになるわけではありません。

目的が「案件増に対応し、品質と納期を守ること」だとします。

その目的を達成するために最低限欠かせないのは、必要な処理能力を確保することでしょう。

それに対して「2名増員」は、処理能力を確保するための一つの手段です。

言い換えれば、「2名増員」という具体案から「必要な処理能力の確保」へ一段抽象化したことで、初めて別の手段が見えるようになります。

ここを分けるだけで、選択肢が増えます。

採用以外に、自動化、外注、既存業務の停止、案件選別、他チームとの再配分が見えてくるかもしれません。

課長の付加価値は、部下の案より優れた案をその場で思いつくことではありません。

問題と解決策が一体化した報告をほどき、チームがもう一度考えられる状態をつくることにもあります。

Herbert A. Simonが組織の意思決定を論じた「限定合理性」の考え方が示すように、人間は無限の情報と計算能力を持って判断しているわけではありません。だから、最初に見えた解へ一直線に進む前に、問題の構造を見直す価値があります。

 

4. 動かせないと思っている条件は、本当に壁なのか

もう一つ、課長が見るべきなのが「制約」です。

「予算がない」

「システム上できない」

「他部署が認めない」

「昔からこのやり方だ」

「顧客がそう言っている」

これらは、すべて同じ重さの制約でしょうか。

法律や契約、安全基準のように、守るべき境界はあります。

一方で、以前の運用ルール、部門間の慣行、誰かの過去の判断が、いつの間にか「動かせない条件」に見えていることもあります。

課長が問い直したいのは、単に「その制約を破れ」ということではありません。

その条件は、誰が、何の目的で置き、今も有効で、誰なら変えられるのか。

ここまで遡ることです。

この問いを持つと、「予算がないから採用できない」も、「採用できないから諦める」でもなくなります。

上位目的に照らして、条件を維持するのか、上位者へ相談するのか、別の手段を探すのか。課長の判断領域が広がります。

 

5. Copilotには、解決策より先に分解を頼む

ここでCopilotを使います。

「人手不足を解決する方法を教えて」と聞けば、Copilotは採用、外注、自動化、業務改善など、もっともらしい案を返してくれるでしょう。

悪くはありません。しかし、それでは課長自身が置かれた問題設定は、ほとんど変わっていません。

先に、こう頼みます。

次の報告について、結論や解決策はまだ出さないでください。

内容を①事実 ②前提条件 ③制約条件 ④目的達成に必要な条件 ⑤手段に分けてください。

曖昧なもの、根拠が不足しているもの、別の分類があり得るものは、私への確認質問として返してください。

さらに「2名増員」のような具体的な手段について、それを一段抽象化すると本当に確保したいものは何かを示してください。

これだけでも、Copilotの動作は「答える」から「ほどく」に変わります。

さらに課長として使うなら、

制約条件の中に、法律や契約のような外部条件と、社内で変更可能な条件が混ざっていないか問い返してください。

と加えてもいい。

変えるのは、Copilotに何を答えさせるかではなく、どう考えさせるかです。

これはプロンプトの小技を覚える話ではありません。課長自身が、何を分けて考えるべきかを理解しているからこそできる使い方です。

 

6. 明日から:すぐに賛否を言わず、まず分ける

明日、部下から提案を受けたら、一度だけ試してみてください。

「それは事実なのか、条件なのか、それとも手段なのか。」

口に出さなくても構いません。メモの上で三つに分けるだけでも、見え方は変わります。

そして必要なら、前提条件、制約条件、必要条件まで分けてみる。

課長がすぐ答えを出さなければ、判断が遅くなるわけではありません。

むしろ、間違った問題に対して素早く答えることを避けるための一手です。

次回は、この「条件」の出所をさらに遡ります。同時に、上位から降りてくる抽象度の高い方針を、課長がどのように現場の具体へ翻訳するのかを考えます。

部長から「既存顧客の収益性を改善してほしい」と言われた課長が、チームへ「新規は後回し」と伝えたとしたら。

それは本当に、部長の方針だったのでしょうか。

 


《ANT-B0マネージャー編》について

《ANT-B0マネージャー編》は、AI時代の「課長の付加価値」を考え直す実践ワークショップです。

管理職研修でも、Microsoft 365 Copilotの操作方法を覚えるAI研修でもありません。

Copilotを思考支援の相棒として使い、実務の報告を分解し、前提や制約を問い直し、課長としてチームへ返す問いを変えていきます。

自分は課長として何を生み出すのか。その答えをこちらから教えるのではなく、一緒に考えるワークショップです。

ANT-B0m《ANT-B0マネージャー編》について相談する

 

参考文献

  • Tversky, A. & Kahneman, D. (1981). The Framing of Decisions and the Psychology of Choice. Science, 211(4481), 453–458. DOI
  • Simon, H. A. (1997). Administrative Behavior, 4th Edition. Simon & Schuster. 出版社公式ページ