Skip to content
9月 15, 2026
9 min read time

Copilotに「考え方」を指定していますか|答えをもらうAIから、問い返すAIへ《ANT-B0マネージャー編④》

Copilotに「考え方」を指定していますか

 

みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。

今回は現場の要である課長(マネージャー)に焦点を当てた、AIを課長ならではの使い方について5つの記事を書きました。

課長とスタッフが、同じCopilotの使い方、例えばメールの作成、書類の成形、ちょっと複雑なExcelの作成でいいのですか?という問いを4DL Technologies株式会社から皆さんに投げかけます。

 

「どれを優先すべき?」とCopilotに聞いてみた

課長の手元には、三つの案件があります。

重点顧客A社への価格改定。新規の大型案件B。育成中のメンバーに同行すべき案件C。

時間は限られています。

課長はCopilotを開きました。

「どれを優先すべきでしょうか?」

返ってきたのは、緊急度、重要度、収益性、顧客関係、育成効果を比較しましょう、という整理された回答でした。

間違ってはいません。むしろ、かなりもっともです。

しかし画面を閉じても、課長の判断はあまり深くなっていません。

なぜでしょう。

AIに良い答えを求めただけで、自分の考え方そのものは一度も揺さぶられていないからです。

04_Copilotに考え方を指定する

 

1. AIは、聞き方次第で「もっともらしい答え」に戻る

生成AIは、文章作成や要約だけでなく、判断相談にも使えます。

ただし、「どうすればいい?」「どれが正解?」と聞けば、AIは与えられた情報の中から、一般的に妥当そうな整理や結論を返そうとします。

問題は、回答が間違っていることではありません。

課長の仕事には、唯一の正解がない判断が多いことです。

短期売上を取るか、利益率を守るか。

重点顧客へ時間を使うか、新規機会を取るか。

自分で案件を処理するか、育成のために任せるか。

ここでAIに結論を委ねると、課長が本来やるべき「判断基準をつくる」という仕事まで外に出してしまいます。

自動化研究では、支援システムを過度に信頼すると、利用者側の監視や判断に偏りが生じる「overreliance」の問題が長く研究されてきました。ParasuramanとRileyは、自動化の誤用の一つとして過度な依存を論じています。

生成AIになっても、人が最終判断者であることと、AIをどう使うかを設計することは消えません。

 

2. 答えを求める質問から、判断を深める質問へ

では、Copilotを使わない方がいいのでしょうか。

逆です。

課長にとって面白いのは、Copilotが答えを出せることより、自分一人では出しにくい問いを返せることです。

例えば、同じ三案件の相談でも、こう変えます。

「どれを優先すべき?」

ではなく、

私は現時点でA社の価格改定を優先しようと考えています。

結論は出さず、この判断で私が暗黙に置いている前提を列挙してください。

さらに、部長、顧客、チームメンバーの三つの視座から、私が見落としている点を質問として返してください。

こうすると、AIの仕事が変わります。

「正解を出す」から、課長の判断を外から眺める材料をつくるへ変わる。

ここが、作業支援とは違うAIの使い方です。

 

3. Copilotに持たせたい四つの動作

課長の判断支援として使うとき、Copilotにさせたい動作は大きく四つあります。

一つ目は、前提を外に出すことです。

「重点顧客は絶対に優先すべき」「今月の売上を落とせない」「育成は繁忙期が終わってから」。自分の中では当たり前になっている条件を言語化させます。

二つ目は、別の視座を持たせることです。

部長なら何を見るか。経営なら何を見るか。顧客の購買責任者ならどう見るか。自分の立ち位置から一度外れるために使います。

三つ目は、抽象度を動かすことです。

個別案件の話を、条件、作戦、戦略、目的へと一段ずつ抽象化する。逆に、抽象度の高い方針を「明日、誰が何をするか」まで具体化する。思考のズームを意図的に動かします。

四つ目は、自分へ問い返させることです。

AIが結論を言う前に、「なぜそう考えるのか」「その条件は誰が決めたのか」「逆の選択をすると何を失うのか」と返させます。

つまり、AIに任せたいのは「判断」そのものではありません。

判断を深めるための摩擦です。

Buçincaらの研究では、AI支援の意思決定で利用者にあえて考えさせる認知的な介入が、AIへの過度な依存を減らす可能性が示されています。便利さを最大化するだけでなく、適切なところに「考える手間」を残すことには意味があります。

 

4. 「壁打ち」「視座」「抽象度」を分けて考える

4DLでは、AIとの壁打ちを広く付加価値を上げるための思考支援と捉えています。

考えを言葉にする。反論を出させる。別案をぶつける。抜けを探す。前提を疑う。

これらはすべて壁打ちです。

その中の具体動作として、ここでは二つを分けて考えます。

一つが視座を動かすこと。これは「どこから見るか」を変える動作です。「自分の課」から「部門」へ。「部門」から「会社」へ。あるいは顧客や市場へ。問題を見る基準点を意図的に動かします。

もう一つが抽象度を動かすこと。これは「どの粒度で見るか」を変える動作です。A社の値上げ交渉という個別事象から、自課の収益構造、戦略、上位目的へとズームアウトする。逆に上位方針から、現場が明日動ける打ち手までズームインする。

視座は立ち位置、抽象度はズーム。 壁打ちは、その両方を含み得る、より広い思考支援です。

だから、壁打ちをしているだけでは、必ずしも視座は上がりません。

「この案どう思う?」「他にない?」を何往復しても、ずっと自分と同じ位置から話していれば、思考量は増えても見る位置は変わらないことがあります。

課長としてCopilotを使うなら、対話量だけでなく、AIにどの位置から考えさせるか、どの粒度まで抽象化・具体化させるかを設計したいのです。

 

5. Copilotに「どう考えるか」を指定する

ここで《ANT-B0マネージャー編》の背景にある4DL-AASの考え方を少しだけ紹介します。

4DL-AASには、AIに単なる作業指示を与えるだけでなく、どのような思考動作をさせるかを設計するProtocol層があります。

その中でも、物事を分解したり別の観点から検討したりする思考層と、自分の出した考えをもう一度問い直す再帰層は、マネージャーの判断支援と相性がいいと考えています。

ここでいう再帰層は、単にAI自身に回答を見直させるだけの仕掛けではありません。AIから人間へ問いを返し、人間の中にある判断材料を、もう一度対話の中へ引き出す動作も含みます。

課長は、経験の中で多くの判断材料を持っています。「この顧客は数字だけでは読めない」「このタイミングで値上げすると関係が崩れる」「このメンバーなら、ここまでは任せられる」。しかし、そうした知見は普段から完全に言語化されているわけではありません。

Copilotから「なぜそう考えたのですか」「過去に似た状況はありましたか」「何に違和感がありますか」と問い返されることで、課長は自分の経験則や違和感、判断根拠を言葉にする。その結果、暗黙だった知見の一部が外に出て、課長自身にも見える判断材料になります。

流れにすると、こうです。

  • 課長が判断材料をAIへ渡す
  • 思考層で、前提の分解・視座の移動・抽象度の操作を行う
  • 再帰層で、AIから課長へ問いを返す
  • 課長が経験則・違和感・判断根拠を言語化する
  • 新しく言語化された知見を、再びAIとの対話へ戻す
  • 判断材料が一段豊かになる

再帰層は、AIを賢くするためだけの仕掛けではありません。課長の中にある知見を、課長自身に見える形へ引き出すための仕掛けでもあります。

難しく聞こえるかもしれません。

実際の使い方は、Copilotに少し「思考の味付け」をするイメージです。

 

役割を与えることと、「考え方」を指定することは同じではない

生成AIの研修では、よく「あなたは○○社の営業部長です」「あなたは経験豊富なコンサルタントです」のように、最初にAIへ役割を与える方法が紹介されます。これは有効な使い方です。役割を与えることで、その立場らしい知識、言葉遣い、関心事を引き出しやすくなります。

ただし、《ANT-B0マネージャー編》でいう「考え方の指定」は、それとは少し違います。

指示の種類 具体例 指定しているもの AIがしやすくなること 4DLとしての見方
役割指示 「あなたは営業部長です。A社の値上げ案件を評価してください」 誰として答えるか 営業部長らしい観点、語彙、一般的な判断材料を出す 有効。ただし「営業部長ならこう考えるだろう」という平均的な役割像に寄ることもある
視座の指定 「営業部長の視座から、この案件で課長が見落としているものを問い返してください」 どこから見るか 部門全体の収益、資源配分、時間軸など、見る基準点を一時的に変える 部長を演じさせるのではなく、部長という位置から見える判断基準を借りる
思考動作の指定 「前提を分解し、個別事象から戦略・目的まで一段ずつ抽象化し、反論を出した後、結論ではなく問いを返してください」 どう考えるか 分解、抽象化、反証、再検証、問い返しなど、思考の手順そのものを変える 4DL-AASのProtocol層が重視する領域。答えの内容より、思考の動作を設計する
4DL型の組み合わせ 「営業部長の視座から見てください。まず課長の前提を分解し、この案件を個別事象→条件→作戦→戦略→目的へ抽象化してください。短期利益・顧客関係・資源配分・半年後の影響から抜けを探し、最後に課長へ問いを返してください」 どこから・どの粒度で・どう考え・どう返すか 視座と抽象度を動かしながら、課長自身の判断を外から検証する 回答生成ではなく、判断支援のための思考設計に近づく

ここで大切なのは、「上位者と同じ視座に立つこと」と「上位者と同じ結論を出すこと」は同じではないという点です。

課長が部長の視座を借りても、部長と同じ答えを出す必要はありません。欲しいのは「部長なら何と答えるか」ではなく、部長という位置からなら何を判断基準として見るのかです。

一般的な役割プロンプトが「誰になって答えるか」を指定するものだとすれば、4DL-AASはさらに、「どこから、何を見て、どの粒度で考え、どう問い返すか」まで指定する。

役割指示を否定するのではなく、その先へ進むイメージです。

第3回で見た方針から戦術までの流れのどこで自分の解釈が入り、どこで意味を狭めたのかを、Copilotに問い返させることもできます。

ここで指定したいのは二つです。視座をどこへ動かすかと、抽象度をどこまで上げ下げするかです。

例えば、こうです。

私の現在の判断を、①自チーム ②部門マネジメント ③経営の三つの視座から評価してください。

結論は出さず、それぞれの視座から見落としている目的・条件・利害関係・時間軸を質問として返してください。

まず、この判断を一段ずつ抽象化し、個別事象・条件・作戦・戦略・目的のどの階層で扱うべき問題か整理してください。

さらに、上位の方針・目的・目標を、私が自課の戦略・作戦・チームの条件へ具体化する過程で、解釈を狭めたり固定化した可能性がないか問い返してください。

最終判断は行わず、私が判断するための問いを返してください。

Copilotそのものを改造するわけではありません。

どこから見るか、どの粒度で考えるか、どう問い返すかを指定することで、動作を課長向けに変える。

第1回から置いてきた伏線はここです。

変えるのは、Copilotに何を答えさせるかではなく、どう考えさせるかです。

 

6. 明日から:最後に「問いを返して」と加える

明日、Copilotへ判断相談をするとき、一文だけ加えてみてください。

「最終判断は行わず、私が判断するための問いを返してください。」

それだけで完璧な壁打ち相手になるわけではありません。

しかし、AIとの関係は少し変わります。

答えを受け取る人から、AIを使って自分の判断を検証する人へ。

AI時代の課長に必要なのは、AIより賢い答えを出し続けることではないでしょう。

AIに何を考えさせ、自分は何を判断するのか。その役割分担をつくることです。

そして、一人で抱え込んできた判断をAIとの対話に出し、自分自身で問い直せる状態をつくる。

《ANT-B0マネージャー編》が大切にしているのは、「リーダーを、孤独にしない。」という考え方です。

次回はシリーズの最終回です。

チーム全員がCopilotを使うようになった会社で、課長も同じようにメール、要約、調査に使っている。

それで、本当に課長の仕事まで変わったと言えるのでしょうか。

 


《ANT-B0マネージャー編》について

《ANT-B0マネージャー編》は、AI時代の「課長の付加価値」を考え直す実践ワークショップです。

Copilotの機能を覚える研修ではありません。Copilotに「どう考えさせるか」を変え、自分の判断を問い直し、チームへ返す問いを変える実践を行います。

4DL-AASの考え方も使いながら、同じCopilotを「作業の道具」から「思考支援の相棒」へ変えていきます。

ANT-B0m《ANT-B0マネージャー編》について相談する

 

参考文献

  • Parasuraman, R. & Riley, V. (1997). Humans and Automation: Use, Misuse, Disuse, Abuse. Human Factors, 39(2). DOI
  • Buçinca, Z., Malaya, M. B. & Gajos, K. Z. (2021). To Trust or to Think: Cognitive Forcing Functions Can Reduce Overreliance on AI in AI-Assisted Decision-Making. Proceedings of the ACM on Human-Computer Interaction, 5(CSCW1). DOI
  • NIST (2023). Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0). DOI