静まり返った会議室。あの瞬間ほど、DX推進リーダーとしての自分の無力さを痛感したことはない。経営陣の威光を借り、鳴り物入りで導入したChatGPT。
しかし、いざ「さあ、使おう」と促した私に返ってきたのは、キーボードを叩く音すらためらう、部下たちの重い“沈黙”だった。
それは、私という存在が、チームの思考を完全に停止させてしまった瞬間だった。部下のリテラシーを疑う前に、私自身の“浅はかさ”を猛省すべきだったのだ。
みなさん こんにちは、《聴くチカラ研究所》4DL Technologies株式会社のCCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。
目次
- 「問いが立たない」会議室での違和感
- “AIリテラシー”ではなかった。足りなかったのは「問いの構造」だった。
- 「思考を設計する力」が、AI活用の根幹だと知った日
- ChatGPTではなく、自分自身が“再設計”されていく感覚
- まとめ:AI時代のリーダーは、「答え」ではなく「問い」をつくる。
1. 「問いが立たない」会議室での違和感
- 「AIに聞こう」という善意が、思考停止の号令になっていた
- 出てくるのは、ネット検索の1ページ目と変わらない“ゴミ”
- 部下は「問い方」以前に「何を問うべきか」で固まっていた
「この件、AIに聞いてみようか」。良かれと思って投げたその一言は、いつしか半強制的な「せっかく導入したのだから使いなさい」という圧になっていた。
私の号令一下、メンバーは神妙な顔でPCに向かう。カタカタ…、シーン…。数分後、誰かが絞り出すように言う。「なんか、当たり前のことしか返ってきませんね」。その一言が、まるで伝染病のように会議室の空気を蝕んでいく。
そうだ、彼らはAIとの対話に失敗しているのではない。
私との対話に失敗しているのだ。「何かを聞け」という命令は、あまりに無責任で、一方的ですらあった。
私自身が「何を」「なぜ」「どのように」問うべきかを示せていないのに、部下が天才的な問いをひらめくはずがない。
出がらしのお茶のような、薄っぺらいアウトプットを前にして、私は部下のスキル不足を嘆くフリをしながら、内心では自分のリーダーシップの欠如から目を背けていただけ。
あの会議室の気まずさは、AIが映し出した、私の空っぽな頭の中そのものだったのだ。
2. “AIリテラシー”ではなかった。足りなかったのは「問いの構造」だった。
- 曖昧な問いは、AIにとって丁寧な“無視のお願い”である
- 私はこれまで「便利な使い方」という“餌”しか与えてこなかった
- AI活用の9割は、プロンプト入力前の「思考の解像度」で決まる
「どんな風に聞いたの?」会議後、私が部下の一人に尋ねると、彼は困ったようにこう答えた。
「今のプロジェクトに役立つアイデアを、と…」。ああ、神様。それはAIに対する「どうぞ、気の利かない一般論で私を適当にあしらってください」という、丁寧すぎるお願いに他ならない。
悪気がないからこそ、根が深い。その時、脳内で過去の失敗がフラッシュバックした。
全社にドヤ顔で提案し、現場から「結局、俺らが考え直すんですけど?」と冷ややかに刺された“日報たたき台システム”。あれも全く同じ構造だった。
私は、AIを使えば何かいいことがあるだろう、という安直な期待を振りまくだけの“DXおじさん”に成り下がっていた。
AIが文章を「速く」作るとか、議事録を「楽に」要約するとか、そんな目先の利便性ばかりを語り、肝心の「何を考えさせるか」という最も重要な設計思想を、完全に放棄していたのだ。
AIという名の超高性能なF1エンジンを全員に配りながら、「アクセルの踏み方」しか教えず、「コースの設計図」の存在を隠していた。
愚か、としか言いようがない。
3. 「思考を設計する力」が、AI活用の根幹だと知った日
- 「問いのOS」―思考そのものを構造化するという思想との出会い
- ITの要件定義とは真逆。答えのない場所から問いを彫り出す力
- 問いが問いを呼び、チームの思考がシンクロしていく感覚を知る
自己嫌悪に陥っていた私を救ったのは、偶然目にしたあるレポートの「人間とAIの営み合いとしての問いのOS」という言葉だった。
それは、AI活用とはプロンプトの技術論ではなく、思考そのものを構造化し、設計する思想である、と説いていた。
これだ、と直感した。
私は、IT部門で培った「要件定義」のスキルでAIを乗りこなせると勘違いしていた。
要件定義は「答え」の輪郭が見えている状態から仕様を固める作業。
AIとの対話は、何もない違和感やフワフワしたところから、意味のある「問い」そのものを彫り出す、全く逆ベクトルの知的作業だったのだ。
この「問いのOS」という領域を意識し始めてから、チームに面白い変化が起きた。
一つの問いが、次の、より深い問いを呼び覚ます「再帰性」が生まれたのだ。
例えば、「この機能の納期は?」という問いが、「そもそもこの機能でお客様の何の課題を解決するんだっけ?」という問いに繋がり、最終的に「我々の提供価値って何だ?」という根源的な問いへと深化していく。
そして、この「問いの構造」を共通言語にすることで、メンバーの思考が同期し始めた。
会議での手戻りや認識のズレが、嘘のように減っていった。私たちは、AIを鏡として、初めて同じレベルで思考を合わせる術を手に入れたのだ。
4. ChatGPTではなく、自分自身が“再設計”されていく感覚
- 「なぜ、今それを問う?」この自問自答が、すべての質を変えた
- AIの出力は、自分の思考レベルを映す残酷なまでの“鏡”だ
- 私の役割は“答えを持つ人”から“問いの純度を高める人”へ
「なぜ、この問いを立てるのか?」――この常に自分の内側をみつめるような自問自答が、私の仕事の中心になった。
すると、部下との関係も、AIとの関係も、面白いように変わっていった。
部下が浅い問いを立てた時、私はもう「違う」とは言わない。代わりに、「面白いね。その問いの背景にある、君が本当に解決したい課題って何だろう?」と返す。
相手を否定するのではなく、問いの純度を高めるための“視点・視野・視座をアドバイスする相手”に徹するのだ。
ChatGPTの出力が低い時も同じだ。「このAIはポンコツだ」と毒づくのではなく、「なるほど、私の思考の解像度がこのレベルだから、AIもこれ以上は忖度できないわけか」と、自分へのフィードバックとして受け止める。
AIは、私の知性の限界を冷徹に、しかし正確に映し出してくれる鏡だったのだ。
いつしか私は、チームの中で投げやりな指示や、自分だけで納得している答えを配る存在ではなくなっていた。
代わりに、メンバー一人ひとりが持つ思考の原石を、よりシャープな問いへと磨き上げる、触媒のような役割を担うようになっていた。
AIによって、私自身のマネージャー像がが根底から書き換えられていく。それは、痛みを伴うが、確かな成長実感のある体験だった。
5. まとめ:AI時代のリーダーは、「答え」ではなく「問い」をつくる。
- AI活用の壁は部下のスキルではなく、自分自身の「問いの構造」にあると知る
- IT思考を脱し、思考そのものを設計する「問いのOS」へとアップデートする
- リーダーの役割は答えを与える人から、チームの「問い」を導く人へと変わる
ChatGPTを導入し、Copilotを準備しても、現場の風景が変わらない。
その絶望感の正体は、スキルの問題ではない。リーダーであるあなた自身の思考OSに、「問いの構造」というアプリがインストールされていない、ただそれだけのことだ。
AIは魔法の杖ではない。我々の思考を増幅させるアンプだ。だからこそ、入力する思考の質がすべてを決める。
AIに答えを求める前に、まず自分自身に問わねばならない。
「我々は、何を問うべきチームなのか」と。その根源的な問いに向き合う覚悟ができた時、初めてあなたのチームのDXは、本当の意味で産声を上げるのだ。
「4DL Insight Engine」は、まさに、本記事で吉田さんがたどり着いた“問いの構造”を可視化し、チームの思考OSをアップデートするための羅針盤です。
AIを「使う前に考える力」を体系的に育てたいと本気で願うマネージャーの皆さん、まずはご自身の“問い”を客観的に点検しませんか?
画面上では、あなたの思考が「問いの構造マップ」として可視化され、チームの思考のズレや盲点が瞬時に浮かび上がる。そんな未来を、ぜひ体験してください。