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9月 27, 2025
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DX推進部門が越えるべき“上への壁”——Copilot定着施策の稟議、なぜ上司は首を縦に振らないのか?

Copilot定着施策の稟議、なぜ上司は首を縦に振らないのか?

鳴り物入りで導入が決まったMicrosoft 365 Copilot。DX推進部門の担当者として、あなたは大きな期待と少しの誇らしさを感じていたはずです。ライセンス購入の稟議は、経営層からの「生産性向上」「業務革新」という追い風を受け、驚くほどスムーズに進みました。

全社展開に向けた第一歩は、確かに順調でした。しかし、本当の戦いはその後に待っていました。

みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社CCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。

makeAIworkforyou

 

Copilotという新たな武器を、全社員が真に活用するための「育成・定着施策」。そのための研修プログラムやサポート体制の構築に関する稟議書を提出した途端、あれほど協力的だった上司や役員の反応が、目に見えて鈍くなります。

「重要なのはわかるけど、今じゃないんじゃないか」

「まずは使わせてみて、慣れてもらうのが先だろう」

「現場から具体的な問題が上がってきてからでも遅くないのでは?」

導入決定時の熱気はどこへやら、急に立ちふさがる冷徹な壁。

この状況は、決してあなたの組織だけの問題ではありません。Copilot導入を推進する多くの企業が直面する、これは「導入“後”に訪れる最初の、そして最大の壁」と言えるでしょう。

本記事では、なぜ育成・定着施策の稟議が通らないのか、その構造的な背景を解き明かし、DX推進担当者が上司や経営層を納得させるための具体的な論点と応答例を提示します。

これは、単なる説得術ではありません。組織の未来を左右する、重要な投資判断を後押しするための戦略的コミュニケーションのガイドです。

 

1. Copilot育成施策の稟議で現れる、よくある“上からの壁”

 

育成・定着施策の稟議書を前にした会議室の光景を想像してみてください。

あなたは施策の重要性を熱心に説明しますが、上司から返ってくるのは、想定内でありながら、的確にこちらの勢いを削ぐ言葉の数々です。

「Copilotを使うだけでしょ? なんでわざわざ教育が必要なんだ?」

この言葉の裏には、「WordやExcelに新しい便利機能が追加された」程度の認識が隠れています。

これまでのOffice製品と同じように、マニュアルを配っておけば、賢い社員が勝手に見つけて使いこなしていくだろう、という性善説にも似た期待です。

「効果が見えるまで待とうよ。今はまだ投資のタイミングじゃない」

これは、経営者として当然の視点ではあります。

しかし、Copilotの真の効果は、個々人の「思考の質」や「チームの連携速度」といった、すぐには数値化しにくい領域に現れます。効果が見える頃には、すでに活用できている層とそうでない層の間に、埋めがたい差が生まれてしまっているのです。

「まずは現場で自然に使い始めるまで、しばらく様子を見ようじゃないか」

一見、現場を尊重しているように聞こえるこの言葉が、最も厄介かもしれません。

これは実質的な「先送り」の宣言です。自然発生的な活用に任せるということは、活用レベルを個人の意欲やリテラシーに委ねることに他なりません。組織としての再現性ある業務革新からは、最も遠いアプローチです。

これらの声に共通するのは、育成・定着というプロセスを、いわば「あれば嬉しい贅沢な支援」と誤認している点にあります。

DX推進担当者が、この根本的な認識のズレを正す言葉を持たずに「いや、必要なんです」と繰り返すだけでは、稟議はそこで止まってしまいます。

 

2. なぜ上司は納得しないのか?——説得を阻む3つの構造的ギャップ

 

上司があなたの提案に難色を示すのは、意欲がないからでも、怠慢だからでもありません。そこには、DX推進の現場と経営層との間に横たわる、3つの構造的な「ギャップ」が存在します。

ギャップ1:ツールの本質に対する認識のズレ

経営層の多くは、ITツールを「業務支援」ツールとして捉えているかもしれません。

つまり、既存の業務をより速く、より正確にこなすための道具という認識です。しかし、Copilotの本質はそこにはありません。

これは、人間の「思考支援」ツールです。何をすべきか、どう考えるべきか、そのプロセス自体に介入し、アウトプットの質を根底から引き上げます。

この「思考のパートナー」という概念が共有されていない限り、「なぜ教育が?」という疑問が消えることはありません。

ギャップ2:導入フェーズによる温度差

ライセンス導入を検討していた時期は、未来への期待感や競合他社への対抗意識など、組織全体がポジティブな熱量に包まれていました。

しかし、稟議という具体的な予算執行のフェーズに入ると、経営層は冷静な投資家としての視点に切り替わります。

彼らが問うのは「この1円が、将来何円のリターンを生むのか?」という厳しい問いです。

現場の「使ってみたい」という熱量と、経営側の「投資に見合うのか」という冷静さの間に、大きな温度差が生まれるのは必然なのです。

ギャップ3:育成ROI(投資対効果)の可視化の難しさ

例えば、営業支援ツール(SFA)であれば、「導入後、成約率が15%向上」といった形でROIを定量的に示しやすいです。

しかし、Copilotの育成効果はそうはいきません。資料作成時間が半減した、会議の質が上がった、企画の切り口が鋭くなった――これらは紛れもない成果ですが、直接的な売上への貢献度を算出するのは極めて困難です。

だからこそ、「まずは一部で使わせてみて、効果がありそうな領域を見極めよう」という「様子見」の判断が、一見すると合理的な選択肢に見えてしまうのです。

これらのギャップを認識せず、ただ「必要だ」と訴えるだけでは、議論は永遠に平行線をたどることになります。

 

3. その反論、できますか?——稟議を通すための実践的応答例3選

 

上司からの厳しい問いかけに対し、あなたは言葉に詰まることなく、論点をずらさずに応答できるでしょうか。ここでは、よくある上司の反応と、それに対する効果的な切り返し方を3つのセットで紹介します。

ケース1:上司「現場が特に困っている、という話はまだ聞こえてこないけど?」

  • 応答例:「はい。だからこそ、今が最適なタイミングです。“困る”という事態が発生する前に手を打つのが、本来の定着施策だと考えています。一度、自己流の使い方が定着してしまうと、後から軌道修正するのは非常に困難です。事故が起きてから交通ルールを学ぶのでは、手遅れですよね。」
  • 意図・効果: 議論の土俵を「問題解決(リアクティブ)」から「機会創出・リスク回避(プロアクティブ)」へと転換します。

ケース2:上司「まあ、優秀な社員なら、使っていればそのうち慣れるんじゃないか?」

  • 応答例:「おっしゃる通り、“使える”ようにはなるかもしれません。しかし、私たちが目指しているのは、その先の“使いこなせる”レベルです。例えば、単にメールの下書きをさせるのが“使える”状態だとすれば、複数の会議議事録を読み込ませて次の会議の論点を整理させ、アクションプランまで提案させることが“使いこなせる”状態です。後者のような工夫は、残念ながら自然発生的には生まれません。組織として設計する必要があります。」
  • 意図・効果: 「使える」と「使いこなせる」という具体的なレベルの差を提示することで、育成の必要性を明確にします。

ケース3:上司「で、具体的に何を学ぶ研修なんだ? Copilotの使い方なんて、ボタンを押すだけじゃないのか?」

  • 応答例:「研修では、“Copilotをどう使うか”という操作方法だけを学ぶのではありません。私たちが学ぶべき本質は、“Copilotに何を考えさせ、どう思考を促すか”という対話の技術です。Copilotは優秀なアシスタントですが、指示が曖昧では凡庸な答えしか返せません。良質なアウトプットを引き出すための“問いの立て方”こそ、これからの時代の必須スキルであり、今回の施策の中核です。」
  • 意図・効果: 議論の焦点を「ツール操作」から「思考プロセス」へとシフトさせ、Copilotを「思考支援ツール」として経営層に再認識させます。

4. 育成投資をしない未来——Copilot活用が“宝の持ち腐れ”に終わるシナリオ

 

Copilotを“作業支援ツール”で終わらせるか、“思考のパートナー”へと進化させるか。それを分けるのは、AIへの「問いの設計」に対する、組織の構えそのものです。

もし、このまま育成・定着施策への投資が見送られたら、あなたの組織はどうなるでしょうか。

パターン1:「結局、WordやExcelの便利ボタン止まり」

最も多いのがこのケースです。Copilotは、文章の要約やメールの清書といった、いわば「ちょっと便利な機能」としてしか使われません。

これでは、高価なライセンス料に見合う価値は到底引き出せませんし、「宝の持ち腐れ」という言葉が、これほど似合う状況もないでしょう。

パターン2:「“AIに頼っていい”という文化が育たず、属人化が強化される」

一部のITリテラシーが高い社員だけが、試行錯誤の末に自分なりの活用法を見つけ出します。

しかし、そのノウハウは共有されず、彼らの“秘伝のタレ”となります。結果として、組織内に新たなスキル格差が生まれ、業務の属人化は解消されるどころか、むしろ強化されてしまいます。

パターン3:「チームでの活用共有がされず、個人の効率化で終わる」

Aさんは資料作成の時間が少し短縮されました。Bさんは顧客へのメール返信が少し楽になりました。

しかし、それだけです。個々人がバラバラに効率化を進めるだけで、組織的な「業務革新」という大きな目標には、一歩も近づくことができません。

育成・定着施策とは、Copilot活用という作物を育てるための“土壌”を耕す行為に他なりません。良質な土壌があって初めて、ノウハウが組織の共通言語となり、チーム単位での知見共有が活発化し、自己流の活用が“再現性ある業務革新”へと昇華していくのです。

 

5. まとめ:稟議のゴールは予算獲得ではない。“未来の業務品質”への投資合意です

 

Microsoft 365 Copilotのライセンスを導入したこと。それは、ゴールではなく、壮大な変革のスタートラインに立ったに過ぎません。

そのポテンシャルを最大限に引き出し、真の競争力へと転換するためには、「育成・定착」という地道で継続的なプロセスへの投資が不可欠です。

上司や経営層が、その投資に躊躇するのは、ある意味で当然の反応です。

彼らには、組織全体の資源配分を最適化する責任があります。だからこそ、その壁を論理とデータ、そして未来へのビジョンで乗り越えていくことこそが、DX推進部門に課せられた本当のミッションと言えるでしょう。

すでに先進的な企業では、Copilotを単に“使う”だけでなく、“共に問いを考えるパートナー”として定着させるための、独自の育成プロセスや体系化された方法論を導入し始めています。

その核心は、ツールの「操作方法」を教えることではありません。組織全体の知的生産性を向上させるための「問いの設計思想」をインストールすることにあります。

この稟議は、単なる研修予算の確保ではありません。

これは、あなたの組織が「AIと協働する新しい働き方」に本気でコミットするのか、それとも高価なツールを導入しただけで満足してしまうのかを測る、リトマス試験紙なのです。

上司にこう伝えましょう。「今すぐ目に見える成果が出ないからこそ、今すぐ始める価値があるのです。これは、未来の業務品質そのものへの投資判断です」と。

その言葉を、自信を持って伝えられるかどうかが、Copilot導入の成否を分けます。

 

Copilot導入の“その先”を描くために──B0から始める定着設計をDX推進部門の皆様と

 

Copilotの導入はゴールではなく、始まりにすぎません。真に業務変革へとつなげるには、「定着」──すなわちチームの思考の質と速度を変えるリスキリングが不可欠です。

私たち4DL Technologiesでは、Copilotの定着と本質的な業務変革を支援する3つのリスキリングプログラムをご用意しています。


🟣 ANT-B0:Copilotで「問いを立てる力」を育てる【入門編】

Copilotを“調べ物ツール”などの単純作業利用で終わらせず、思考をともに進める相棒として使いこなす第一歩を体感しませんか?

Copilotにどう問いかければ、欲しい情報が出てくるのか?そして、Copilotから問い返して暗黙知を深掘りしてくれる体験。

業務文脈に合わせた「問いのOS」をインストール。まずはこのB0から始めて、チーム内でのリスキリングを“スモールスタート”しませんか?


🟣 ANT-B1:複雑な業務を再現するプロンプト設計【実践編】

自社の業務にCopilotを本格活用するためのエンタープライズ企業として求めるプロンプトの設計力・再現力・構造化力を非エンジニア向けが学びます。

B0で体感した「思考支援ツールとしてのCopilot」をベースに、業務プロセスにAIを実装する力を養います


🟣 ANT-B2:AIエージェントを自社業務に組み込む【応用編】

Copilot Studioというノーコードツールを活用して、社内専用のAIエージェントを設計・導入を自走するチームにしませんか?

現場が、自分の仕事を、自分たちで設計・開発・修正の試行錯誤できる「業務をAI化する」自走できる状態を目指します。

 

📌まずは安価な体験ワークショップ”ANT-B0”から定着施策を上司と考えませんか?

 

「Copilotを“思考の相棒”に変える」という明確な効果をパイロットチームに体感してもらい上司に提案できる状態をつくりませんか?

場合によっては、あなたが稟議を上げる経営層に「AIによる思考支援の未来」を体感・実感してもらうという作戦はいかがでしょう?

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