「で、先週も話題に上がったC社の件、BANTはどうきいているんですか? 予算は? 決裁者は誰なんだってことでしたか?」
毎週1回の拠点全体会議。
課長の少し不機嫌な風が含まれた声が、澱んだ空気に突き刺さる。矢面に立たされた担当者は、しどろもどろに答える。
「は、はい…ヒアリングはしたのですが、どうもハッキリせず…」
あなたはリーダーとしてその光景を見ながら、内心でため息をつく。
(BANT、BANTって課長は呪文のように言うけどな…。担当も形式的には聞いている。それでも、顧客と何かが決定的に噛み合っていない。この違和感の正体は、一体何なんだ…?)
その答えは、担当者のヒアリング能力の問題ではありません。ましてや、課長のマネジメント能力でもない。
みなさん こんにちは《聴くチカラ研究所》の4DL Technologies株式会社のCCO荒巻順です。ブログへのご訪問、ありがとうございます。
我々NTTドコモビジネスの代理店法人営業が「常識」としてきた営業プロセス、お客様を“診る順番”にこそ、回線ビジネスという顧客基盤の強化を揺るがしかねない、根本的な問題が潜んでいるのです。
1. なぜあなたのBANTヒアリングは「尋問」になるのか?
BANT。Budget(予算)、Authority(決定権者)、Need(ニーズ)、Timeline(導入時期)。
法人営業の教科書には必ず載っている、案件確度を測るための超定番フレームワーク。しかし、この「武器」が、いつの間にかあなたと顧客の間に分厚い壁を築いていることに、気づいていますか?
考えてもみてください。関係性もできていない相手から、いきなりこう聞かれたらどうでしょう。
「今回のご予算はおいくらで?」「最終的にハンコを押されるのは、どなたです?」
顧客の心の声は、きっとこうです。
(…なんだコイツ、ウチの懐具合を探りに来たのか? まだ何も提案されてないのに、値踏みかよ)
その瞬間、顧客の心にはシャッターが下り、強固なバリケードが築かれます。
あなたが良かれと思って聞いているBANTは、相手にとっては「尋問」以外の何物でもない。これでは信頼が育つはずもなく、出てくる情報も当たり障りのないものばかり。結果、あなたの貴重な時間は空回りするのです。
2. 発想の転換 ― BANTは“最後に自然と見える”もの
では、どうすればいいのか。答えは、驚くほどシンプルです。
“BANTは、真正面から聞くのをやめる”
信頼される「名医」を思い出してください。
彼はいきなり診察室で「手術の費用はご用意できますか?」などと無粋なことは聞きません。
まずは丁寧に触診し、聴診器を当て、患者の顔色を診て、生活習慣や過去の病歴まで深く掘り下げる。身体全体をプロとして診断し尽くした「結果」として、最適な治療方針と、それに伴う費用やスケジュールが見えてくるのです。
営業も全く同じ。
BANTは、我々が顧客を深く理解したご褒美として、“最後に自然と浮かび上がってくる景色” なのです。
無理やり聞き出す「目標」ではなく、信頼の先に待っている「結果」と心に刻みましょう。
3. 我々の答え ― 顧客を“骨・血・体質”で診る3つのポイント
小難しいアルファベットの略語をこれ以上増やすのは、もうやめにしましょう。
NTTドコモビジネスの営業が、回線商材ビジネスとクラウド商材ビジネスの両立(=ソリューション)という難しい舵取りを成功させるために、まず“本当に診る”べきなのは、この3つです。
役割 | 診るポイント | 例え |
---|---|---|
骨格 | インフラ構成・契約情報 (回線・サーバー・クラウド・PBXなど) |
人体の骨 |
血流 | 組織構成・業務フロー (部門間の情報の流れ・業務プロセス) |
血管と神経 |
体質 | 導入経緯・意思決定のクセ (成功体験・失敗トラウマ・キーパーソンの価値観) |
生活習慣・病歴 |
顧客の【骨格】を理解し、その上を流れる【血流】を把握し、その根底にある【体質】までをも見抜く。この三層の理解を終えて初めて、BANTという最後のピースが、パチンと音を立ててハマるのです。
4. 実践編 ― “骨・血・体質”を診断する質問テンプレ
では、具体的にどう「診断」するのか。明日から使える問診のヒントです。
4-1. 骨格(インフラ構成)を診る
すべての提案の土台です。お客様の回線システムや情報システムの構成を理解すること。ここが脆ければ、どんな立派なソリューションも砂上の楼閣。
- 「差し支えなければ、現在のネットワーク構成図を拝見できますか? 我々が“地盤調査”をすることで、より的確なご提案ができますので」
- 「クラウドPBXとオンプレのPBXが混在されているようですが、何か理由が?」
- 「データセンターとオンプレサーバー、どのような基準で使い分けを?」
Tip: ネットワーク図や契約明細を「提案のための“地盤調査資料”です」と伝え、先に共有してもらうのがプロの技。顧客にとってもメリットがあることを明確に伝えましょう。
4-2. 血流(組織・業務フロー)を診る
ここに「詰まり」や「淀み」といった、顧客の本当の痛みがあります。なぜなら、最重要なのはお客様の業務の中身を知ることだからです。
- 「営業の方が見積書を発行される際、どの部門の承認を得て、どの端末からお客様にお送りしていますか?」
- 「月末の請求処理で、最も時間がかかっているのは、どのプロセスでしょうか?」
- 「モバイル端末の管理は、情報システム部が主管されていますか? それとも総務部でしょうか? どういった点を一番気にされていますか?」
Tip: ヒアリングしながら、ホワイトボードや手元のノートに簡単な業務フロー図を書きましょう。「ここが詰まって、ここでバイパスが発生しているんですね」と可視化するだけで、顧客はあなたを「理解者」と認識します。
4-3. 体質(導入経緯・背景)を診る
顧客の意思決定の「クセ」が隠されています。地雷と攻略法は、ここにあり。
- 「3年前に今のシステムを導入された際、最終的な決め手になったのは、どういった点だったのでしょうか?」
- 「これは笑い話としてですが、過去にシステム導入で大きなトラブルになったり、肝を冷やしたご経験などは?」
- 「今回のキーパーソンである〇〇部長は、新しい挑戦による成果と、現状維持のリスク、どちらをより強く意識されるタイプの方ですか?」
Tip: 雑談こそが最高の診察です。コーヒーを飲みながら「御社の成功譚」や「他社には言えない失敗談」を引き出せたなら、あなたはもう単なる営業ではありません。
5. ケーススタディ ― “骨・血・体質”で逆転した、ある実話
東日本に7拠点を構える、ある製造業A社。当初のニーズは「古くなった本社のPBXをクラウド化したい」というものでした。BANTだけを聞けば、そこそこの案件です。
しかし、担当のS君は「骨・血・体質」の診断から始めました。
- 骨格診断: 本社のネット回線は1Gbps以下。このままでは全社の音声をクラウドに上げると不安定になるリスクを発見。
- 血流診断: 営業担当者が、会社支給のPCではなく、個人のスマホで見積書を撮影して客先に送っている実態を把握。重大な情報漏洩リスクが野放しに。
- 体質診断: 雑談の中から、3年前に他社で通信回線の夜間切替に失敗し、翌日の業務が半日ストップした「夜間切替アレルギー」とも言えるトラウマがあることを突き止めた。
S君の提案は、単なるPBX更改ではありませんでした。
「まず本社の回線帯域を増強し、夜間切替のリスクを完全に回避する工程を組みましょう。その上で、全拠点のPBXをクラウド化し、さらに営業全員にMDM(モバイル端末管理)を導入してセキュリティを担保しませんか?」
結果、どうなったか。
商談期間は4ヶ月から2ヶ月に短縮。案件規模は当初の1.6倍に拡大。
そして何より、A社の社長から「君はうちの会社のことを、うちの社員より分かっているな」という最高の褒め言葉をもらい、その成功モデルを他支店へ横展開する真のパートナーとなったのです。
6. エピローグ ― 「骨・血・体質」が診えれば、BANTは自然と整う
BANTという呪文を唱え、顧客の懐を探る「尋問官」になるのは、もう終わりにしましょう。
我々が目指すのは、顧客の未来を共に創る「名医」です。
その鍵は、“順序の逆転”。
まず、顧客という人間を、【骨格・血流・体質】の三層で深く、敬意をもって「診断」する。
そして、その“カルテ”を元に、最適な処方箋を描き、最終確認としてBANTをサマリーとしてまとめる――。
これが、これからのNTTドコモビジネス営業が、AI時代を乗りこなし、“名医”へと進化するための、そして回線ビジネスという顧客基盤の強化に繋がる、最も確実な近道です。
さあ、明日からの問診、始めてみませんか?
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